偉大なるマンネリ
★★★☆☆
ハードボイルド探偵のスペンサー・シリーズの第三十作。
三十作ということですから、ある意味、偉大なマンネリにはまり込んでいるシリーズです。ということで、今回もタフガイを自任する肉体派探偵スペンサー、その恋人で美貌の精神科医師スーザン、黒人の相棒ホーク、拳銃使いのヴィニィ、ロサンゼルス市警のクワークなどが登場します。いつもの定番メンバーが今回も登場です。
今回の依頼主は、スペンサーのある意味息子ともいえるポール・ジャコミン(シリーズ屈指の傑作「初秋」に登場)の彼女。彼女の依頼は、彼女の母親のエミリィが28年前に運悪く銀行強盗に射殺されたという事件の真犯人を見付けだして欲しいというもの。当時ですら有力な情報もないままに迷宮入りになった事件にスペンサーが挑むのだが、調べれば調べるほどに事件には裏があり、エミリィはただ単にそこにいて偶然に殺されたわけではないという事がわかってくる。果たしてその事件の真相とは?
真相を暴いたところで、それが誰の役に立つのか。果たして依頼人の為にはそれは暴くべきなのか?
正直マンネリの部分もあり、各シーンの軽口もキレに落差がありすぎるし、プロットも弱いし、単独の小説として傑作かというとそうではありません。ただ、偉大なマンネリズムものとして、ファンには「いつものあれ」という感じの心安さがあるのも事実です。例えば、独特の「〜のだ」という訳文や、殺人に悩むスペンサー、黒人と白人ネタの掛け合いなども含めて、定番の味があります。最後の解決についても「解決」ということに対してのカタルシス不足で消化不良という感じがしないでもないですが、このあたりの決着のありかたもスペンサーらしいといえばいえるかも知れません。
だから、誤解を恐れずにいうなら、ファンならば買いですが、はじめてスペンサーシリーズを読むのならば、もっと初期のものをお勧めします。
そういう意味では巻末についている各界の人が選ぶ「スペンサー・シリーズのベスト」に名前があがっている「初秋」や「レイチェル・ウォレスを探せ」がそういった方にはお勧めです。
しかし、、長年のファンの方なら余計にそう思うのでしょうけれど、スーザンの好色の度はますます上がっていると思いませんか? 度を越しているというようなレベルでは既になくなっている気が。素直にスーザンの年が50歳くらいであることを考えると、、。まぁ、これはあくまで余談なんですけれどね。