アーサー王にあまり興味がなくても
★★★★★
十二分に引き込まれる内容でした。
そもそも一人称の小説は苦手なのですが、これはするっと読めました。それぐらい、ストーリーにのめり込んでいきました。
これはアーサー王伝説がなぜ伝説になったのか、ということを一人の少女が語る物語です。
そのなかでアーサー王は偉大で高潔な人物ではなく、その時代ならどこにでもいたある戦隊の隊長として描かれています。彼らの周りにひしめいていた「円卓の騎士」や王妃グウィネビア(作中ではグウェニファー)も同様で、どこにでもいるありきたりな戦士、女性として少女に語られていきます。
といっても伝説を否定しているわけではなく、こういう史実、説があるからそれに基づいて、という小説ではなくてあくまで数あるアーサー王の物語の一つだと筆者は語っています。
そういうスタンスのせいか、いわゆる「伝説の男」を「ただの男」にしてしまったという設定にもかかわらず、彼らが逆に生き生きと魅力あふれるキャラクターになっています。
本当にそこにアーサー殿がいて、少女に寄り添って彼らを眺めているような、そんな幻想的かつ生々しく迫ってくる物語です。
とても面白かったv
伝説のアーサー,目下製造中
★★★★★
素晴らしい傑作ではあるが,西洋時代小説としては随分風変わりである.訳文は全く無駄のない模範的文体.ローマがブリタニアを去って力の真空状態が起きた5世紀,悪党たちが無数の群れを作って覇権を競っている.Arthur もそうした悪党の頭目の一人に過ぎない.Arthur の力量を買った Myrddin the Bard (吟遊詩人) はけちな戦いをも何か一回り大きな意味のあるものとして吟じ,Arthur とその一党の面々もその気になる.Arthur の為に家も家族も失った Gwyna は Myrddin に拾われて男の子として育ち,主人のレトリックからトリックまで完全に身に付けて成人する.Arthur は Myrddin の期待に応えず,悪党として死ぬ.Gwyna は Myrddin の最期を看取り,Arthur の死をも確かめた後,伴侶とともに吟遊の旅に出て,結果的に Arthur 伝説の拡大と普及に尽くし,亡き師の志を継ぐのだった,というのが全体の筋.今のイギリスからは想像もつかない森と畑の緑の国の牛糞が匂う血生臭い話だが,圧倒的な説得力が印象的.推薦.