味わい深い武家物語
★★★★★
最近の時代小説は町人物が主流で武家物も歴史もの・チャンバラもの以外は本当に少ない。
この6編の短編は正統派武家物というか、いずれも身に起きた出来事を通して武家の生活の断片を鮮やかに見せてくれる。それにしても乙川節というのか、この人の文章は、全くこれ以外に表現しようがないような中身の濃い文章である。プロだなあとしみじみ思う。読み始めるとすぐに目の前にぱあーっと情景が立ち上がってくるのだ。
特にお気に入りは「面影」。「桜田門外の変」という歴史的な事件に関わった佐倉藩士の述懐なのだが、意外性のある視点でこの事件を振り返っていて興味深い。この文章を読むと寡作なのは当然かと思うが、願わくばもっといっぱい読みたいなあ。