「人にはそれぞれ『自分の木』ときめられている樹木が森の高みにある…人の魂は、その「自分の木」の根方から谷間に降りて来て人間としての身体に入る…そして、森のなかに入って、たまたま「自分の木」の下に立っていると、年をとってしまった自分に会うことがある」
7、8歳のころ、太平洋戦争の間に祖母からこの話を聞いた著者は、年老いた自分にこう問いかけたいと思った。
「――どうして生きてきたのですか?」
著者はこの質問に答えるためにずっと小説を書いてきたという。しかし、それから60年近くがたち、「年をとってしまった自分」になってみると、若い人たちに向けて「自分の木」の下で直接話をするように書きたいという気持ちが強くなった。自分の言葉が彼らの胸のうちで新しい命として生き続けられるように――。
本書は著者が初めて書いた子ども向けの本である。自伝的要素が強く、不登校、生きる理由と方法、自殺、言葉、戦争、反戦運動、勉強の方法などをテーマに、悩める子どもたちへの真摯(しんし)なメッセージが著者自身の体験と共につづられる。小学校で経験した敗戦、四国の山間で父や母、祖母から伝え聞いた話、勉強に勤しんだ学生時代の思い出の数々、障害を持って生まれた長男の誕生と成長…。大江ゆかりの挿画は玉に傷だが、多くの困難を乗り越えて偉業を達成した著者の言葉は、暗闇に迷い込んだ子どもたちやその親に、希望という一筋の光明を与えるに違いない。(齋藤聡海)
自分自身のありようを考えさせてくれる
★★★★★
以前読んだ本から、大江健三郎氏の小説は難解、という印象が強くありましたが、この本は、氏が初めて子供に向けて書いた文章です、ということで読んでみました。
なぜ子供は学校に行くのか、子供の頃に尊敬していた人はどんな人か、どんなやり方で勉強してきたのか、なぜ子供は自殺すべきではないのか、など氏の子供時代のエピソードを織り込みながら、その時々に感じ考えたことや、今、考えていることなどが淡々と書かれています。
子供向けの文章とはいえ、内容的には人生論といえるものですので、大人が読んでも自分の今までの生き方やこれからのありようを考えさせてくれる濃い内容となっています。
私は、大江ゆかりさんの画も、淡くやわらかい色調で、ご夫婦が二人三脚で歩んでこられたような感じがして好きです。
普通の言葉が深く染み込みます
★★★★★
「少し待ってみる」こんな当たり前の言葉が心に染み込みます。これは「子育てと教育の大原則:糸山泰造著」で「人間的な判断力」と書かれていることと同じことなのではないかと思いました。
「少し待ってみる」ことができることが人間の証明なのかもしれません。
子供を信用した作家
★★★★★
なぜ人を殺してはいけないのか。
なぜ自分を殺してはいけないのか。
子供に問われ、実際に大人も自分に問う。
難しかったこの問いについて、
常に問い、何かを探し続けた作家の答えは
取り返せないから。
こんなにすっきりした答えが出てくるとは。
この言葉が唐突に出てくると、ひょっとしたら
違和感を抱くのかもしれませんが、
それを語りだすまでのプロセスがその言葉に
重みを加えている。
普段の大江氏の文章は、複雑なことについて逃げずに語っているだけに
非常に難解な印象を抱きがちだが、
この本は子供に向けであり、
伝えたい言葉を厳選している。
年齢によってはわからないこともあるかもしれない。
しかし、何度も読むに値する内容であると思う。
大江ゆかり氏の絵もかわいらしい。
愛を感じる1冊
★★★★★
言葉の使い方・表現は子供向けに書かれてるが、はたして子供に理解できるだろうかというほど内容については深いと感じた。
大江健三郎さんが体験し、感じ、考えたことがわかりやすい言葉で語られているという印象を受けた。
読み手(あるいは聴き手)に対する愛情を感じる。
とりあえず、私はそこに嘘の気配を感じなかった。
自分の感じたことを素直に伝える努力がされている。
ぜひ、たくさんの人に読んで欲しい。
継承してほしいこと
★★★★★
偶然手にして初めて大江さんの書を読んだのですが、この本は
わかりやすい文体で切々と訴えてくるような感があり、
感動しました。そして子どもの受験問題などで
悩んでいる友人にも勧めました。
どうして学校にいかねばならないのか。
どんな人になりたかったか?
自分の「人となり」を考え直し、そして未来に続いていく、
自分の子どもたちに何が継承できるのか、考えされられました。
自分の勉強する目標がよくわからなくなった学生さんや、子育てに
ふと不安になった人には心に響く言葉がたくさんあると思います。