樹上からユーモラスに俯瞰されたヨーロッパ史
★★★★★
カルヴィーノは以前に小説と哲学的随筆の中間みたいな掌編集『パロマー』しか読んだことがなかったので、今度も難解で読みにくいのを覚悟していたのだが、これがなんと実におもしろいのだ。ヴォルテールやナポレオン等実在の有名人まで登場させてきての法螺話は、最後まで飽きさせない。
地上に決して降りないという一つの主義を貫いた男爵の話は、恋愛あり、冒険あり、哲学的思索ありで、18世紀後半から19世紀初頭までのヨーロッパ歴史を、ドイツ語やフランス語、英語、ロシア語をもちりばめながら概観していく。その軽いユーモアを決して忘れない語り口は、お見事と言うしかない。
樹上生活者の一生
★★★★☆
椎名誠の短篇「鉄塔のひと」に抱いたのと似たような興味を持って読み始めた。制約された状況下において具体的にどのようにして生活を送るのか。なんとなく特定の木を定めてそこから一歩も動かないのかなと思っていたら、そういう訳ではなく地面に降りなければセーフという「ルール」を主人公は設定しており、それこそテナガザルのように縦横無尽に木々の間を移動する。またサバイバルに固執しない融通加減も興味深かった。寓話的雰囲気や18世紀という時代設定を考慮したため、かように訳文を読みづらくしているのかと勘ぐったものの訳者あとがきによれば、初めての翻訳作品故不得手な面云々とありげんなり。かなり読むのに難儀する文章である。読了後眼球が3センチぐらい埋没するような疲れにとらわれた。もともと作者の狙いがそこにあったのかも知れないが終盤のフリーメーソンが出てくる件から退屈になる。
それだけでは価値がなく、それなしでは意味がない
★★★★☆
「コジモとヴィオラの情熱的な恋」などと言うと、どんな間抜けなお話かと心配してしまいますが、実際彼らがオンブローザの森の木の下で突き詰めた間抜けさは、ちょうど僕たちが日々直面する、悲しい間抜けさなのでした。いったいどうして、一番言いたいことばは告げられず、一番言いたくないことばばかり簡単に口をつくのでしょう?
「あなたは木の上の領主様よ! でも、地面に落ちたら全てを失うの」。コジモがついに得られなかったもの。木の上の領主様が、全てを失ったとしても得るべきだったかもしれないもの。このヴィオラの警句が暗示する本作のテーマ、それは少なくとも木の上のお間抜けの一人である僕にとってもまた、深刻な問題なのです。
挿絵が全然無いけれど
★★★★☆
ラストがあっさり切なかった。
本がすきになる
★★★★★
~カルヴィーノの作品は麻薬的な成分がある。最初なんとなくこんなもんかなー、と思って読み始めると、いつのまにかどっぷり無我夢中で読んでしまっている自分に気がつく。「読み」すすめることが楽しいのだ。
この作品もその例に漏れない。出会いと別れに縁取られた怒濤の中盤、時代の変化を感じさせながら静かに終盤へと向かっていく様子は、読み終えたじん~~わりとした感動を与えてくれる。
<冬の夜ひとりの旅人が>同様、作者の本に対する敬いが感じられて、読むといままで以上に本が好きになる一冊だと思う。~