さわやかな読後感と重厚な物語。
★★★★★
たまたま仕事で数値を扱うことが増えたので、この話への興味がわいたってのもあるが、それを差し引いても大いに楽しめた。最高!
計測屋でのんびりと働く、警察が肌に合わなくてやめた主人公・偲の設定がいい。
通常、元・警察官のキャラクターはちょっとやさぐれていたり組織から大きくはみ出ながらも
どこかで矜持を捨てきれずに屈折しているのだが、
偲は正義感やバランス感覚、そうして「現実と折り合う能力」をきちんと残しながら、下町でまっとうに育ってゆく。
最後のクライマックスシーンで太郎に起こったこと、偲の前に展開した構図はとても私の胸を凍らせたけれど、
それでもこの小説が前に向かって倒れる、清々しいまでのまっすぐさを損なわずに終わった点は、とても嬉しく思った。
分析も検証もすばらしく、数学にある種の魔力があることを思い出し、
でもそれでも最後に数字が恣意ではなくまっとうな意思によってこそ生かされてほしいと、素直に願うことができた、悦楽。