内容は、西洋の思想家・作家などの著作からの抜書きや感想(トーマス・マン、カール・シュミット、マックス・ウェーバーなどに多く言及しています)や、社会科学方法論や政治思想に関する覚書、東大紛争の頃のエッセイなどです。オークショットの保守思想に共感をしている部分など興味深いものがありますが、丸山の好きだったクラシック音楽に関する記述では、ヴァーグナーやカラヤンに対する批判に丸山の思想がよく示されています。また、伝説的になったあのリヒターの『ミサ曲ロ短調』東京公演の記録もありますが、丸山ならではの感想が記されています。
様々なフラグメントからなる本書ですが、全体を貫いているものは、自己と他者が未分化で他者を他者として扱わない「ズルズルべったり」の共同体的な感覚や「処置なしのロマン的思考の氾濫」、すなわちナルシズムに対する厳しい批判であるように思います。本書の一節に、「国際交流よりも国内交流を、国内交流よりも、人格内交流を!」という言葉がありますが、本書は、政治や社会を考える者に様々な思索の材料を提供してくれるとともに、他者と有意義な議論をする気構えや、精神の独立の何たるかを教えてくれます。近代主義者・進歩主義者・形式主義者・国民主義者などなど、様々なレッテルを貼られてきた丸山ですが、本書をじっくりと読んでいけば、そのような一面的なレッテルからは理解できない丸山の姿が浮かび上がってきます。トータルな「思想家」としての丸山眞男の姿を知るのに最適の一冊です。
また本書には、「永久革命」など、丸山の考えが端的なテーゼに表現されている箇所が多くあり、きっと他の著作を読み解く際のヒントになるでしょう。丸山を解説した本にはいい本が沢山ありますが、本書が一番の解説本なのかもしれません。