日本へ続くシルクロード
★★★★★
インドへ赴いた中国僧の中でも、最も著名なのは玄奘三蔵でしょう。
不退の志によって支えられた求法の旅は、有名な『西遊記』の題材ともなり、日本でもお馴染みです。
彼は広くインドを歩き膨大な経典を請来し、帰国後はその翻訳に努めたのでした。
彼によって開かれた法相宗は遣唐使や日唐求法僧によって奈良へももたらされ、南都仏教の花を咲かせたのでした。
まさに奈良は「シルクロードの終焉地」でありました。
本書は『大慈恩寺三蔵法師伝』を底本とし、現代訳を施したもの。
玄奘はその旅の記録を『大唐西域記』にまとめていますが、そちらは少々地理書としての性格の強いものであり、
一般の読者にとってはこちらのほうが読みやすいでしょう。
当時の東西トルキスタンからインドへかけての貴重な資料であるばかりでなく、
求法の旅を続ける玄奘の姿からは、壮大な物語性が感じられます。
時折霊異譚なども交えつつ、それでいて抑制の利いた筆致で綴られており、無駄な誇張は感じられません。
それが本書を一層格調高い物としています。
平城京遷都1300年を控え、最近何かと耳目を集めているのが旧都・奈良。
目に映る古い寺院の風情に浸るのも良いですが、遠い天竺とそこから法を伝えた僧たちの足跡が見えていれば、
そこにある「意味の風景」がより一層の深みを持って見えてくるに違いありません。
奈良を訪れる前に是非手にとっていただきたい一冊。