これから哲学と心理学を学ぶ人にお薦め
★★★★★
「私とは何か」という哲学的な問題に対して、本書は主に心理学的な知見を利用しながらアプローチしていきます。キーワードは「言葉」と「身体」。言葉を操る人間は、その言葉を最初は親などの他者から学び、最終的には自己内対話が可能になるまでに成長します。この自己内対話は私と私の内にある仮想他者との対話と言ってもよいものです。それによって思考も可能になるわけですが、それが「私」というものの出現でもあります。つまり他者との関係性なしに「私」はあり得ないのです。そしてその他者との関係を築く上で重要な役割を果たすのが身体です。そのあたりの詳細は、本書を読んでいただいたほうがよいでしょう。全体的に著者自身の体験が具体例として活かされており、大変分かりやすい内容になっています。また、関係性という視点から、自閉症について理解する道が提示されているところも、本書の特徴と言うべきでしょう。哲学、心理学の予備知識なしでも十分に読めるので、大学でこれからそういう勉強をしようと考えている人には特にお薦めです。