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たまらん坂 武蔵野短篇集 (講談社文芸文庫)

価格: ¥4,562
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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男の情緒は滑稽だということ ★★★★☆
老年が見えてきた男の情緒が描かれた短編集。
三多摩の土地をテーマにした連作。
男の情けなさが伝わってきた。
感受性の強い男は老けると、
このように滑稽な自意識をもつものかと、
多少の驚きをもって読んだ。
その点、老いを迎えようとする男の自意識を深くえぐった力作だと思う。
自分の人生にも、女への未練も半端に総括し、
それすらも言い訳する男の情けなさを描き切っていると思う。
地名が触発する ★★★★☆
ユーモアを含んだ不思議な書名に魅かれてこの短編集を読んでみた。すぐれた作品はタイトルからして違うという話があるが、これはまさにそういった作品集だと思った。

この本は「たまらん坂」、「おたかの道」、「せんげん山」、「そうろう泉園」、「のびどめ用水」、「けやき通り」、「たかはた不動」という武蔵野の地名を取った7つの短編で構成されている。どの作品でも主人公はそろそろ定年を迎えようとする男たちである。主人公たちがこれらの地名を聞くことによって古い記憶を呼び起されたり、あるいはその地名の場所に赴いて非日常的な光景に出会うというのが基本的なパターンである。

はじめの「たまらん坂」は一種の謎解きの要素がある小説である。毎日、多摩蘭坂を登って帰宅する主人公が、多摩蘭坂は落ち武者が「たまらん」と言いつつ逃亡していった坂だという説に魅かれ、落ち武者のイメージと自分とを重ねつつ、「たまらん」の由来を確かめようとする話である。由来を知ることで主人公は救われるのだろうか?

つぎの「おたかの道」もまた謎解きの要素をはらんでいるが、その謎は主人公の妻によって瞬時に解消されてしまう。だが「おたか」という音の響きは主人公に青春の艶めかしい記憶を呼び起こす、という話である。

「のびどめ用水」、「けやき通り」はこれらの地名の場所で主人公たちが非日常的な光景に出合う話である。「のびどめ用水」の黒いベレーを被ったコートの女性、「けやき通り」の猫を拾う女性、いずれも現実で出会ったら怖いだろうと思う。これらの2作は日常に突き刺さったサスペンスを描いているといえるだろう。