吉村昭さんの頭の中を覗く
★★★★☆
ノンフィクションにも小説にも、大変厳しい戒律を設けて
接していらっしゃる吉村さん。その吉村昭さんの頭の中が
覗ける、取材ノートである。
事実に対しては「事実の中に小説はない」と断じ、
フィクションに対しては「ディティールのウソは、決して許さない」
吉村さんの態度は、まるで、いい加減が賞揚される現状に一石を投じるようである。
いい加減も真剣にいい加減に取り組めば、いいんですけどね。
実態に肉薄していく方法に毎度目が覚まさせられる
★★★★☆
この本を読むきっかけになったのは、もともと『戦艦武蔵』にいたく感銘を受け、以来、吉村昭作品の虜になったからだ。本書は『戦艦武蔵』を書くためにした取材の過程を記したノート(ノンフィクション)だが、生き証人に会い取材をする方法をはじめ、実際に足を運ぶというジャーナリストの基本を実地に示している教科書ともいえるものだ。また、ニュージャーナリズムとの類似点も多い作品である。ジャーナリストではない私にとっても、自分の感覚を出発点にするという心構えとでもいうものを教えてくれた一書であった。以来、違和感を感じたものについては実際に確認してみるという癖がついた書でもある。国民投票法案(これ自体は必要な法律なのだが、会社法だって普通決議・特別決議・特殊決議と、より成立への難易度が増していくのに憲法改正への如何せんハードルが低いのだ。)が成立しそうな状況の下、この本をもう一度手にとってみたくなった次第である。
小説家の執念と業の深さを感じる
★★★★☆
吉村氏の傑作「戦艦武蔵」を書き始めるきっかけから、作品の完成そしてその後を書いた「随筆」?。この本自体がノンフィクションになっている。吉村氏ご本人は「父譲りの小心」と言っているが、その対象に向かう生真面目で誠実な姿勢が、関係者の心とふれあい、様々な状況を取材できることにつながっている。「戦艦武蔵」を読んだだけでは、なぜ吉村氏が「戦艦武蔵」を書こうとしたかは分らないかもしれない。是非、この作品も併読して、吉村氏の真意と当時の関係者の実態を知ってほしい。一つの対象に向かって喰らいついていく、作家の執念を感じる作品。
本日8月1日未明に吉村先生が亡くなられました。司馬先生、白石先生、そして吉村先生と好きな作家が亡くなるのは辛い。
寿命があるとは言うものの、本当に残念です。
吉村先生、多くの素晴らしい作品、ありがとうございました。