私が書く以前に、この作品を推薦するのは、徳富蘇峰と、幣原男爵である。その貴重な巻言は巻末に寄せられている。更に言うと、これは昭和天皇の天覧も賜っているという。
乃木が愚将との話があるが、乃木を語るを以って、これだけの箔がつくことに私は衝撃を受けた。愚将という認識のみでは、多くが欠落することは疑いもない事であると思う。というのも、一度動き出すと、驀進を緩めなかった乃木第三軍が、奉天の戦場に入るや雄叫びをあげながらロシア軍に与えた脅威というものは、誠に恐るべきものだったのである。そこには、世界からの敬意すら集まったという話を、無視する訳にはいかないだ㡊??う。
これは、米国新聞記者であり、実際に乃木第三軍付従軍記者を勤めた作者が、殉死の衝撃から筆を執った乃木回顧録である。その内容は、もう鳥肌が立ってくる。
山本五十六と同級であるとの高校教師・目黒真澄訳は、美である硬質な漢文と、流れでる詩のような日本語を見事に繰り出す事により、「乃木とはかくの如き人であった」という回顧と追憶を、静かな筆遣いで完成させていく。その質は、恐らく当代、最高級ではないかと思う程で、普通の速度で読めば、百頁に満たない為、アッと読み終えてしまうのであるが、ゆっくりと、文字の流れを読み進めるや、突如、胸の打ち震えるような、静かな感動が押し寄せてくるのを、幾度となく感じる内容となっている。
頁も少ない。箔もあり、内容も最高ときている。!昭和55年に初版復刻版が出、私の手許にある平成12年度版では15刷となっており、知られてはいないものの然るべき人には、読み継がれている。新渡戸稲造は「武士道」を世界に掲げた。それから数年後、乃木と東郷の二人が、最高の武士道、サムライとして、大英帝国の皇室から招待されたという情景は、真実なのである。これは価値のある古典的名著だ。
日本人なら、たまにはこういう渋みのある作品も読まれたい。