『ヒッチコック・マガジン』編集や、構成作家などの生活を送っていた著者の生活は、その人間関係を見ているだけでも興味深い。
しかしながらそれに加えて、出版のあてのない小説(いまや天井知らずの古書値を誇る『虚栄の市』のこと)や論文を書きつづける彼の執念と、意にそまぬ仕事と理想の狭間での煩悶が何とも共感を誘うのだ。これは私が彼と同年代だからかもしれないが。
確かに異色の同時代史といえるかもしれないが、どちらかというと小林信彦とその人間関係をめぐる私記であるので、ゆめゆめ風俗的な資料を求めてはならない。
なお、これに加えて、やはり同時期に発表された諸編をまとめた『地獄の読書!録』『コラムは踊る』や、『回想の江戸川乱歩』などを併読すると、興味は倍増すると思う。