華麗でファンタジックな踊り
★★★★★
『緋色の研究』、『四人の署名』、『シャーロック・ホームズの冒険』、『回想のシャーロック・ホームズ』、『バスカヴィル家の犬』に
続いて刊行されたシリーズ第六作。第三短編集にあたります。
『回想のシャーロック・ホームズ』に収録された「最後の事件」において消息を絶っていたホームズ。そんな彼が本書冒頭に収録された
「空家事件」で華々しく復活を遂げることになります。そして全十三編心置きなく躍動してくれますね。そして躍るといえば本書には
「踊る人形」が収録されている。一際ユニークな暗号解読が愉しいです。ほか代表作ともいえる「ノーウッドの建築業者」も独創的な
アイデアが光りますし、何より「空家事件」はファンにとっては感傷が貫く一品だ。謎解き要素が無いに等しい「恐喝王ミルヴァートン」
なんかもスリルあり、アクションあり、意外な展開に意味深なオチありと個人的には忘れられない一遍。
未読の方は是非、これらの物語りをホームズやワトスンと一緒に冒険してみて下さい。
ライヘンバッハからの「生還」
★★★★★
◆「六つのナポレオン胸像」
あちこちでナポレオンの胸像が壊されるという奇妙な事件が起きていた。
そして、4つめの胸像が破壊された際には、殺人事件まで起きて……。
イギリス国民にとっては仇敵ともいえるナポレオンの胸像を破壊すること――。
人はこうした行為に、意味づけせずにはいられません。
旧弊な国粋主義者の犯行か、あるいは固定観念にとりつかれた偏執狂の仕業か――。
つい、このような先入観を抱いてしまい、真相を見逃してしまうのです。
もっとも、本作のパターンに関しては、のちに様々に変奏され、数多くの
類似作品を生み出しているため、すぐに真相に気づいてしまうのですがw
◆「踊る人形」
暗号ミステリの嚆矢であるポーの『黄金虫』の向こうを張った作品。
ホームズは『黄金虫』同様、英語のアルファベットのなかで、いちばん使用頻度が
高い文字がEである、という事実を糸口に、暗号を解読していきます。
ホームズの生還
★★★★☆
前作(最後の事件)においてホームズはライヘンバッハの滝に宿敵モリアーティー教授とともに落ちたと思われたが、実は落ちたのは教授のみだったのだ。その後、九死に一生であったホームズはモラン大佐から逃れるため大陸を回り、中国やチベットにまで行っている。
ある事件がきっかけで、ホームズはロンドン第二の危険人物モラン大佐を捕まえるべく、霧の都ロンドンへと戻ってくるのだ。ワトソンを変装で驚かせ、彼を再び連れ立って空き家の冒険へと向かう姿は感動的である。
ホームズを愛するものなら読まずにはいられない短編集である。私のお気に入りは「空き家の冒険」