モダニズムの建築家がごく当たり前のように雑誌で取り上げられるようになり、ル・コルビュジエの名はずいぶん一般的に知られるようになった。20世紀の建築の展開を最先端でリードし、名作と呼ばれる作品を数多く残したこの建築家=画家=アジテーターは、確かに組み尽くせぬ魅力を持った特異な存在である。
端的に言えば、ル・コルビュジエは本質的に住宅の建築家であった。人間の生きる空間を作り出すこと、その生きることの一部が切り出されある特定の施設として計画されたとしても、彼の建築は常に生身の肉体を持つ人間が生きる器としての建築であった。これは当たり前のことのように思うかもしれないが、しかしこれはこの建築家に独特なことなのである。彼の建築にはいつもそのことがカタチとして明確に定着されている。
本書はル・コルビュジエの全住宅作品の図面と模型写真をクールに羅列しただけのある意味で愛想のない本である。400分の1という一定のスケールで、平面図・立面図・断面図が並べられ、模型写真が数枚、淡泊と言えばこれ以上のことはない。しかし時系列に沿って並べられた整然とした情報をゆっくりと読み込めば、建築家の生々しい思考を読み取ることができるはずだ。そこには熟成されていく建築家の思考が如実に現れている。次第に複雑さを増していく3次元的な空間の構成、自然光を取り入れ受け止めることへの執着、時にストイックになり時に官能的になる意識の振幅、読み取るべきものは紙面構成のクールさに反して実に豊かである。プロジェクトが発展させられていく過程をも追えるように途中経過も可能な限り収録され、106作品、210案を網羅している。
端から読み解いていく必要などない。枕元にでも転がしておいて、ぱらぱらめくるだけでも良い。2次元の図面を読み取りながら建築家の抱いた3次元のイメージを追うこと、それは一種の修練であって、そうすぐにできるようになるわけではない。砂をかむような退屈さを覚えることもまれではないだろう。しかしそのうちに少しずつ図面を通して建築をイメージすることができるようになり、図面を通して建築を考えるようになる。図面というのはいまだに他に代えがたい建築のメディアである。写真はもちろんわかりやすい優れたメディアに違いないが、決してそれだけではつかみきれない水準が建築にはあり、それはいつも図面を通して思考されているのである。そうした建築家の思考を読み込むにはある種の訓練が必要だろう。しかしその訓練のためにこれほど好適な本もなかなかないのである。(日埜直彦)
図面がもう少し大きければ・・・
★★★★☆
価値ある美しい本だが、如何せん図面が小さくて読み取りにくい。残念!
リファレンス的に利用できる
★★★★★
・コルブの本は、ちょっと知識がないと対応できないものが多い。
・歴史的な順序が理解できていないと、深い知識は得られない。
その中でこの本はリファレンス的に利用できる。
例えばサヴォア邸の前にラロッシュジャンヌレ邸が建設されているとか。
時代の流れの中で建築を読み解かなくては、SD選書レベルは
単に読んだだけになってしまう。建築計画、デザインの知識を得るには勿論の事だが、
コルブに関しての他の図書を読み解くのにも多いに利用できる本です。
価値ある1冊
★★★★★
コレはユニークな労作です、労作に見えないのがまた良い。
安藤氏の作品も同じですが図面をみても建築が簡単には立ち上がってこない。
脳内空間イメージの訓練に最高。
詳細
★★★☆☆
伝説の巨匠の全作品が模型と図面で記されています。
建築を学んだことのない私ですが、ピロティーとかRC打ちっぱなしとか住宅団地の構造など、よく目にする建築様態の源はここなのだなと感心できました。
それでも、建物(敷地も含めて)の質感は分かりませんので、やはり建築を学としてとらえている人向けの本だと思います。
同じく模型を作ろうという人には、格好の参考書でありましょう。
評価は3.5がないので3としました。
近代建築三大巨匠の一人、ル=コルビュジェを見る
★★★★★
この本一冊を通して、巨匠『ル=コルビュジェ』の全作品を見ることが出来ます。計画のみで実際には建てられなかった建物までもが網羅されており、一般的には知られていないような作品も見ることも出来ます。また、計画された年代順に掲載されており、説明の文章を書かずに図面だけを載せることによって、読者に『コルビュジェの考えた建築というもの』を、時間に沿って考えさせることが出来るようになっています。建築家の方や、建築士を目指している方にはオススメの一冊です。値段は少々張りますが、それに十分に見合った内容であると思います。