最良の批評はガイドブックとなる
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この本は、世界中に散らばったル・コルビュジエの作品すべてに辿り着ける唯一のガイドブックである。ガイドブックはえてして実用性を優先するばかりに、作品の本質にまでガイドしていってくれるものはまずない。だが、試しに無作為にこの本のページを開いてみよう。たった一ページの文章の中でデボラ・ガンズは、形態論や空間論を軽々と横断し、施主のエピソードや施工上の問題をはじめとした目から鱗のトリヴィアルな話題までちりばめて、読者を作品の前に降り立たせる。すぐにでも実物を見に行きたくなると同時に、紙面の上だけでも建築を楽しめるような仕掛け。
批評とは、つねにガイドブックであるべきだし、理想的なガイドブックは良質な批評としての質を備えるべきである。批評とガイドブックの幸福な融合が、ル・コルビュジエという豊かなコーパスを通じてこの本に結実している。ル・コルビュジエに関して一冊だけ本を手に取るつもりなら、躊躇うことなくこの本を選ぶべきだ。ペーパーバックの表紙は、まもなく擦り切れてしまうことになるだろう。