短編のお手本、燻し銀の咄家。
★★★★☆
妖しいほどの出来栄えの釣竿を海中の死人から手にした釣人と舟の船頭にまつわる怪談「幻談」、激しい雨中、一宿を請うた山寺の草庵の室壁に掛かった中国の細密な画に、晩生の学生の運命転機を見取った「観画談」、鼎の骨董を巡って虚々実々の消息が微に入り細に亘って繰り広げられる「骨董」、魔術、魔法を歴史の知識を縦横無尽に駆使して語られる「魔法修行者」、川魚が釣れず、母親を亡くして継母につれなくされている少年の心に同情をよせて綴られる「ろ(漢字がない)声」。
出色はやはり「幻談」「観画談」か。口語のリズムに乗って気持ちよく運ばれる物語に、我々はいつのまにやら没入してしまう。自由闊達というか、変幻自在というかその筆運びは余裕綽々で、どこへ我々を連れ去ろうとしているのかという、あの引き込みの力は圧倒的だ。ひとつひとつのイメージの喚起力の深さ、描写の的確さは目を瞠るものがある。露伴を受け継ぐ小説家は現在誰がいるだろうかと、とぼんやり考えてしまう。
生の執着の深さと同時に生を解き放つ自由さを達観したタオイスト、露伴は決して古びることはあるまい。