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五重塔 (岩波文庫)

価格: ¥420
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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人智を超えた力で作られた五重塔 ★★★★☆
本作品は多くの人に知られる名作です。
私は、昨年(2009年)の「歌舞伎座さよなら公演七月大歌舞伎」で上演されるのを観たいと思ってはいたものの、都合で観ることができず、このたび原作を読んでみることとした次第です。

技量はありながら人間関係を巧く作れないゆえに、「のっそり」とあだ名される十兵衛。
彼が、谷中の五重塔の建立に一身を捧げ、完成させるという物語。

文語調で改行がほとんどなく、1頁に読点(。)がひとつあるかないかの文章ですが、数頁も読むと、その表現の美しさに引き込まれてしまいます。
あとはもう、一気読みでした。

特に注目したのは、朗円上人の発注する五重塔の工事の請負を十兵衛と取り合う源太の人物設定です。
彼は受けの良い親方ということで、私はてっきり世渡り上手の嫌な奴なのかな、と思っていました。
ところがこれが全然違うのです。
十兵衛に対し、一緒に仕事を請け負うことを持ちかけたり、十兵衛が仕事を請け負うと決まってからは、自分が大事にしている絵図を見せてあげようと提案したりする、気配りの出来る「大人」なのです。

これに対し、十兵衛はすべて拒否。
これじゃあ源太が怒るのも無理もないよ、という物語展開で、幸田露伴は、人智を超えた力による、いわば魔性にでも憑かれたようなものづくりの姿を描きたかったのでしょうか。
確かに、後半、建立された五重塔が、この世のものとも思えない嵐に耐える姿は、人智を超えた力を思わせるものがあります。

ところで、現実の谷中の五重塔ですが、寛政3年(1791年)に再建され(この時のことが本作品のモデルになった)、その後風雪にも耐えていたものの、昭和32年(1957年)に「心中放火事件」により焼失してしまったとのこと。
人智を超えた象徴である建物が、一握りの人間の勝手な振る舞いで姿を消してしまったというのは、何とも皮肉な話です。
読んでよかった ★★★★★
現代文から比較すると、平易に読める文章ではないが、その分、日本語の良さを一字一句味わって読むことができる。物語自体もハラハラする展開が楽しめ、決して”のっそり”ではない。是非一度は読んでみては?とお奨め出来ます。
小説として荒いんじゃないかと ★★★☆☆
絢爛かつ荒々しい文体で紡がれる作品なのだが
のっそりのような性格の人物は
非常にマニアックなものは作れるかもしれないが
その建築物はどこかバランス感覚に欠ける
いびつなものにしかならないのではないか、
源太のような世故に長けた大将然とした人物こそ
五重塔のように多数の職人の技量を束ねて
製作しなければならない建築にはふさわしいのでは、
と考えるのが世間並みの感覚で
それを覆すからにはよほどの細密な人物造形や
印象的なエピソードのようなものが必要だと思うのだが
どうもそのあたり書き込みが足りず説得力を欠く気がした。
和尚がのっそりのほうを選んだ理由も今ひとつしっくり来ない。
一種の教養小説、道徳小説としてはともかく
文学としてはどうなのかと思う。
少なくとも現代においてこれと同レベルのものを書いても
さほどの評価は得られない気がする。
何か全体的に荒い。
幸田露伴の小説作法 ★★★★☆
     
         幸田露伴の小説作法
 尾崎紅葉と並び称される作家という理由で学生時代に流し読みした記憶はあったが、かなりもたついた書き出し
に少々閉口してしまい、途中で投げ出したくなったのを今回再読してもやはり感じたのです。
 作家にとって小説の主題に入る前の助走みたいな前段階の部分が、あまりに長すぎるので、すぐに作品にのめりこめなくなってしまったことに気がついたのです。
 再読したいと思ったきっかけが、あの尊敬する建築家の安藤忠雄氏が人生の進路になやんでいた時、この「五重の塔」を読んで、強い感動を受けて将来を決めたということを知ったことからでした。
 さらに地方のFM放送を聞いていたとき、「のっそり十兵衛」というラジオネームで投稿されている方がおり、気になって質問状を送ったところ、よくぞ聞いてくれたという感じで返事がありました。「のっそり十兵衛」というと、柳生十兵衛をもじったと思う人が多くてちょっと残念だったとのことでした。
 小説の展開は、あるていど読み進むと何となく見えてくるのに、この「五重の塔」はなかなか分らないのも面白く、終わりがまた何とも謎めいていて改めてずっしりとした読後感をもちました。「のそり十兵衛」さんは今もどこかで生きていそうな気がするのです。
 かずかずの読者の人生観を変えたこの小説にあらためて拍手を送りたいと思いました。




大廈高閣はマスターピース ★★★★★
『五重塔』です。
『技量はありながらも小才の利かぬ性格ゆえに,「のっそり」とあだ名で呼ばれる大工十兵衛.その十兵衛が,義理も人情も捨てて,谷中感応寺の五重塔建立に一身を捧げる.エゴイズムや作為を超えた魔性のものに憑かれ,翻弄される職人の姿を,求心的な文体で浮き彫りにする文豪露伴(一八六七―一九四七)の傑作. (解説 桶谷秀昭)』
旧かなづかいで、一見難解っぽい漢字が多く、一つの文章がやたらと長くて「。」がめったに登場しない文章なので最初は戸惑ったのですが、すぐに慣れます。というのも、文章自体非常にテンポが良く、ストーリーもシンプルなので混乱する心配がありませんので。途中で建築専門用語も多数出てくる所もありますが、個々の語は理解できなくても五重塔の精緻さが充分に伝わってきます。
本自体は厚くないのですが、内容そのものは充実していて、本作品こそが作中で題材とされた谷中感応寺の五重塔のような、嵐に吹かれてもびくともしないような名作だと思います。ちなみに現実の谷中五重塔は放火によって焼失しているようです。

日本語の豊饒さを現出した文章表現で、描かれるストーリーがまた、エンターテインメント作品に劣らぬほど熱く激しいです。
愚直な「のつそり」十兵衛と源太の二転三転する葛藤、双方の妻をはじめとする周囲の人間が翻弄されるさま。そんな中で仏性を体現したかのような上人の超然たる存在も印象的です。
十兵衛も源太も、現代の観点からすれば古臭いほどの昔気質の人間ですが、その中でも個性があって新旧対立の構図を描いています。十兵衛は頑固一徹、源太は義理人情。
最後は、秀逸な描写として高名な、完成した五重塔が激しい嵐にさらされるシーンで、盛り上がりも最高潮を迎えます。
読後感も良かったです。名作として評価が高いのもうなずけます。これが露伴の若い頃の作品というのが驚きでもあります。評価は★5です。