面白いかと言えば……
★★★☆☆
初めての言文一致態で書かれた小説。当時は『当世書生気質』、『滝口入道』など擬古文調の文章で小説を書くのが当たり前だったため、この本は革新的であり、現在でも文学的にも歴史的にも大変価値のあるものであると思う。ただ、言文一致と言っても現代の小説並みではなく、落語っぽくおもしろおかしく節を付けて茶化しているような所があり、擬古文よりはましだが、やはり若干読みにくい。
貧乏ではあるが頭の切れる書生、内海文三を通して当時の風俗を描写した作品。居候をしている娘のお伊勢に惚れてあくせくしたり、免職を食らって職を探して奔走したりと出来事の正確な描写が例の節を付けた文章と相まって芝居かなんぞの様に展開していくのはなかなか面白い。一昔前の言い回しが多く注釈が非常に多いのが気になるが、それ以外は別に古文の教養がなくても何の支障もなく読みこなせる。読みにくいとはいえ節のついた言い回しも慣れれば非常に面白く感じられてくる。細かな感情描写もなかなかのもので、これもいいと思った。
ただ、どうも後の方になってくると、事態の深刻さと文章の軽い調子に少し齟齬が出てきてだんだん興が冷めてくる。一応お伊勢に対する恋愛がベースになっているものの、二葉亭本人の唱えた正確な描写に拘りすぎている感があり、読んでいると面白いかというとちょっと微妙だった。途中で著者が投げ出してしまっている(つまり未完)でもあり、知古との諍いや、職の復帰など片づかないところが多く、自分自身で後のストーリーが予想されるほどのところで終わっているのならば良かったのだが、中途半端で不満が残った。
文学的には価値があると読んでいても感じさせられるところがあるが、残念ながら面白いかと言えばそうでもない。資料的な興味がある人は読んでもいいかもしれないが、微妙なところ。
文学以外の面からみて
★★☆☆☆
読んだ動機は明治時代の世相を文学から知りたいというものだった。その目的では、団子坂の菊人形の話が出てくるくらいで、あとは下宿している家の中というあまりに狭い世界を描いているとは言え、まず満足できた。しかし私のごとき理科系人間からすれば、あの明治という全てが帝国主義のもとに世界に発展していこうとしているときに、こんな男女の感情のもつれをくどくどと書くなどとは信じられないことで、よく小説など読むならまともな勉強をしろと親から言われた話を聞くが、まさにあの時代なら当然だったと納得できる作品。文学者たちは得々と明治における最初の言文一致小説として絶賛するが、その時の社会は実際のどんな評価をしていたか、新聞などから知りたくなる。
先駆者の苦悩が忍ばれる
★★★☆☆
日本初の近代的小説である。内容が云々と言うより、「小説というものをどうやって書くか」という点に悩んだ作者の苦悩が伝わって来る作品である。また、作家を志す旨を父に告げた際、「くたばってしまえ」と罵倒された文句をそのまま筆名にした作者の苦衷が忍ばれる。
四迷は小説を書く言葉について考え抜いた挙句、落語の語り口を選んだ。文語(漢語)でもなく、かと言って日常の話し言葉でもない言葉を捜しての苦悩の選択である。現在の眼で見ると文語調に感じられるが、当時としては斬新な試みだったと思う。
その後の明治文学の先駆けとなった記念碑的作品。
意外と現代的
★★★★☆
大学の演習で取り扱ったのですが、それまで二葉亭四迷は
文学史上では坪内逍遥の次に名前があがるので、
さぞ古風な小説家と思いきや、なかなか現代人でもわかるお話です。
明治という時代は時間の流れが激しかったことと思いますが
昭和から平成だって、携帯が当たり前になっている、手紙が
メールになっているという超絶な変わり方をしているのですから
二葉亭あたりが感じた文明の変転以上を私たちは体験しています。
映画のALLWAYSが大当たりしましたが、あれだって私らの親の世代。
それがたった40年でここまで変わったのです。
そうしたときの流れ、風俗文化の違いを知ることができて
かつ、普遍的な愛憎劇もあって、今でも充分に楽しめます。
悶々と・・・
★★★★★
若者の苦悩が伝わってきます.
何でも,好きな人を基準にして行動しようとしたり,好きな人の言うことがとにかく気になったり...
世渡りが下手で,でもプライドはあって,上手に生きていけない若者.
そんな主人公にちょっといらいらしたり,共感したりします.
若者の気持ちを表したものとしても読み応えがありますが,
文章がきれいなので,音読しても良いかもしれません.