また第12章で、作家は一言で言い表せることが必要というのはユニークな指摘と思った。例えば円地文子は「女の業を書く作家」、津島佑子は「シングルマザーもの作家」という具合にである。
以上の他にも独特の観点からのアドバイスが多く、小説家になるとは思わなくても、小説を読んだり文章を書いたりする上で有益であった。
図書館で借りてきた本だから、どうせ碌に読んだことにならないと割り切って拾い読みをしていたら、最後の方(最終章「文章力を身につけるには」)で究極の言葉が出てきた。
──白洲正子の『いまなぜ青山二郎なのか』に「骨董は買ってみなければわからない」「骨董いじりは女道楽より高級でも下等でもない、と青山さんはいっている」「男の眼を持たなければ陶器はいつまで経っても伊万里のそば猪口を出ないだろう」とあったのを思い出す。骨董いじりと女道楽と文章。いずれも男の眼を持たなければならない。それというのも、保坂和志(『書きあぐねている人のための小説入門』)によると「小説を書くということは……何もないところから自分の文章を立ち上げていくこと」なのだから。