センチメンタルで味わい深い作品
★★★★★
このアルバムが発売した前後に多くの社会的な事件が起こる事になる。1967年にデトロイトにて暴動が起こり、市民に死傷者が発生。そして公民権運動の盛り上がりと共に、各地で多くの衝突が発生することになる。そして1968年4月、公民権運動を牽引してきたMartin Luther King, Jr.(キング牧師)が暗殺され、各地の暴動が激化していった。そういった背景の中Stevie Wonderの意識はこうした社会情勢を反映した作品を創りたいと思うようになっていた。だが、Motown側はそうした政治的な色を作品に表現する事を極端に嫌い、度々Stevieと衝突を起こすようになる。
そんな中発売された"For Once in My Life"というアルバム。この頃を境にStevieのアルバムのクオリティが非常に高く優れたものになっていく。クラヴィネットを導入したり、サイケデリックな感覚を取り入れたり、Slyを意識したようなファンク色の強い楽曲だったりと、新たな音への追求が度々見る事が出来る。そしてPaul McCartneyを思わせるようなメロディセンスの確かな楽曲が目立ってきている。色々な意味でStevie自身のパーソナリティがアルバムに反映されるようになってきている。
このアルバムには好きな楽曲が多い。タイトル曲"For Once in My Life"は勿論の事、ファンキーなクラヴィネットが響きわたる"You Met Your Match"、"Don't Know Why I Love You"なんかも勿論素晴らしい。だけど僕が個人的に大好きなのは、Stevieのセンチメンタルなメロディが効いている"I'd Be a Fool Right Now"、"Ain't No Lovin'"、"Do I Love Her"といった作品。このアルバムに何処か漂う哀愁は、あまり目立たないけれど美しいこういった楽曲達が創りだしているように思う。