この翻訳は聴講生の講義録の翻訳が中心となっている。これまでの「法哲学」の訳はほとんどが、「はじめに」と「主文」と「注解」および「増補部分」というかたちでなされてきた。だがヘーゲル自身が出版した著書は、講義用の教科書でかならずしも理解しやすいとはいえない。それに対し、この翻訳は、実際にヘーゲルが1824/25年におこなった講義を聴講者のグリースハイムが筆記した、そのノートを、まず核として翻訳し、そのあとに付録として、従来の「法哲学」の「はじめに」と「主文(#1--#360) 」を訳出している。
講義録ということで、もとになる講義用の教科書より、はるかにわかりやすく、ヘーゲルの講義の口調が伝わってくるようである。しかも理解に不安な部分に関しては、ヘーゲル自身の著作をも参照できるという、発想の転換を行った翻訳である。集中的に、ヘーゲルの翻訳に情熱を捧げてきた訳者ならではの発想である。