劇作家と俳優、嘘つきはどっちだ?
★★★★☆
中世風の異様な衣裳に身を包んだ三人の医師――“ペストの医者”の登場を
皮切りに、ペストを発症したという患者の消失、ゴミ箱からの死体の出現など、
次々と不可解で魅惑的な謎を読者に提示していく冒頭の“つかみ”が、秀逸。
その後、物語は、ツイスト博士のもとに持ち込まれた奇妙な犯罪の話――
推理物の舞台を手がけている劇作家とその主演俳優との間で繰り広げられる、
虚々実々の騙し合い――に移行し、読者の興味は「劇作家と俳優、どちらが
嘘をついているのか?」というシンプルな問いに集約されることになります。
前述の消失と出現のトリックは、ともに安易なものですが、状況設定の妙で
カバーされています。それに、何といっても中盤以降で起きる第二の事件の
アリバイ工作がよくできています。
“肉を切らせて骨を断つ”的な大胆な犯行計画、そして、完璧に見えたその
計画を瓦解させる心理的な手がかり――繰り返し読者に示されていた犯人
のある行為――が、実に周到です。
結末には、鬼畜な《最後の一撃》が用意され、嫌悪感を抱く向きもあるかも
しれませんが、ミステリ的には、技巧が凝らされた佳作というべきでしょう。