アブストラクトされた記憶の中にある郷愁と呼応する。
★★★★☆
昔はじめて出会ったひかわ作品が「星のハーモニー」でした。懐かしさとの邂逅。素朴な恋物語。
風景にせよ、人物の背景にせよ、個別的なプロットを具に積み上げることでリアルに見え、リアルは具体化の賜物であり、外観が個別化するほど普遍的感情が立ちのぼる。一般的にはそういうものかと思います。けれどひかわきょうこの作品に触れて分かることはそれと異なる筋道で感覚の普遍化を成し遂げる術もあるのだなあと。これは適度に抽象的で空想的な世界だと思います。少女マンガは「少女の憧れ」を映す点でいつの時代も夢見心地な曖昧さに均衡を見出そうとするのかもしれませんが、この作品が描かれたのは今より善良で素朴な憧れを志向した時代であり、その時代における憧れの類型がここにあるようにも思われます。波乱と呼べるほどの事件もない穏やかな夢の欠片。説得力を持ち感心させられたりするようなものではあまりなく、ただ懐かしいと感じここには自分の知っている感覚が宿っていると思わせる作品。読んだ人間に時間を遡らせるような何かがあり、純粋で切実な動機から生まれなければ持ち得ないような力を持っている作品のように思います。