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駆ける少年 (文春文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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なぜ少年は駆けるのか ★★★★☆
「駆ける少年」所収の作品群は、彼女自身の問題と向き合って結晶したものなのか。「あとがき」には、鷺沢は父の使っていたペンネームだと告白している。「駆ける少年」で出てくる公木という姓も父のもう一つのペンネームだという。
父へのこだわり、出生の秘密への探求という自身の関心事が本作品群創作のモチベーションになっていると思える。
 三作品とも場所も人物も全く違う設定で、やるせない状況が描かれているが、必ず気のおけない友人たちが登場する。この友人たちに主人公が囲まれて心のつっかえ棒としていることが鷺沢文学の大きな特徴かもしれない。
 また、難解さを恐れない幻想的な描写が「駆ける少年」冒頭に配置されているが、それは、大空や草原を軽快に駆ける少年を想像して読み始めた読者の誤解を解くために前もってお断りしているような衝撃的なシーンだ。作者自身の心理状態でもあるのでは? と読み手まであらぬ方面へシンクロして心配してしまう描写である。
 その少年は、浮き板が沈まぬ前に次々と乗り移らねばならない強迫的な状況に追い込まれて駆けているのである。この夢、作者自身の夢と見た!
親子はどこまで行っても親子♪ ★★★☆☆
複雑な人間関係の中で育った父。父の過去が見えてきたとき、龍之は父の寂しさを知る。父は寂しさを癒やそうとして走り続けたのか?心の隙間を埋めようとして、出来る限りのことをまわりの人間にしていたのか?父の気持ちが分かったとき、龍之は初めて父と心がつながったように感じたのではないだろうか。親子はどこまで行っても親子。心の絆は決して切れることはないのだと思う。
生きることの本質 ★★★★☆
ドラマティックな展開でもなく、また、華やかなお話でもなく、本作品収録の3編は、多くの人が生きていく上で感じる、やるせなさや、もやもやした気持ちが描かれいます。

特に、1作目の「銀河の町」では、生きている実感を過去に置き去りにしてきた人々の喪失感が、なんともうら寂しく、それだけに切実なリアリティをもって表現されており、普段脳天気に生きている僕でさえ、生きることの本質とは何か、と考えさせられました。

華やかな物語もよいですが、たまには寂しさや自分の中のもやもやした感情と向き合える本作品は読む価値が高い思います。

息子にとって父を知るということの意味を問う作品 ★★★★★
 十年来、鷺沢萠のエッセイのファンでしたが、小説となると映画化された「大統領のクリスマス・ツリー」程度しか読んだことがありませんでした。今回改めて本書を手にしましたが、この短編集に収録された表題作はとても心に染み入る、読み応えのある作品でした。

 発表されたのは89年のことで、当時読んでいたらまた違う感慨を持ったかもしれませんが、社会人としてある程度の年月を過ごした今だからこそ、父親の人生について息子としてもっと知ってみたいというこの主人公の心が私にはとてもよくわかるのです。小説の中の世界に自分の気持ちがすっと入っていけました。
 

 恵まれない家庭環境の中で孤独感にさいなまれていた父が、だからこそ「できる限りのことをまわりの人間にして」やろうと行動していたことを知り、息子の龍之は失った父の大きさを改めて感じます。一人の名もなき人間が生まれ、生き、そして逝く。そのわずかな時間の中で、何かを遂げようと努めていた父の中にあった孤独。それを誰にも気取られぬまま逝った父。
 小説の終わりで、龍之が今また父の背を追うかのように町の人ごみの中に紛れて行く場面の描写は秀逸です。

 こうした味わい深い短編を読むというのはささやかな喜びです。誰かにこの喜びを知らせたくなる小説だとも言えます。
 そしてその喜びを作者の生前に知ることが出来なかったことを悔やむ思いが今の私の心にはあります。
 

読みにくくはない。 ★★★★☆
 収録されたどの話も、日々を生きていくしかない人たちの切羽詰まった感情が伝わってきた。正確には周囲の環境によって左右されていく生活。それでも読んでいて苛々することはなかった。その背景に夏という季節があるからだろうか、蒸し暑さに流す汗のような空気が全体に感じられる気がした。作者の環境・感情描写がよくできていて、どうしても諦めきれない事柄が鬱積されている人生の一つが、短い話の中に凝縮されている。鷺沢萌の力量を感じるのにも良い作品だと思う。