ポップ・ヒストリーの中で最も有名な未完成アルバムといわれるビーチ・ボーイズの『スマイル』が、37年の歳月を経て、ブライアン・ウィルソン自らの手でついに完成した。彼の音楽を心から愛し理解しているジェフリー・フォスケット、ダリアン・サハナジャ(ワンダーミンツ)ら現在のツアー・バンドのメンバーによる強力サポートがあるとはいえ、21世紀の今、これほど緻密に構築された『スマイル』の新録版が聴けるとは、ファンの多くは夢にも思っていなかったはずで、それだけに、今まで“点”だったものが初めて“線”で繋がった感動は計り知れないものがある。そうした古くからの熱心なファンはもちろんだが、アメリカン・ノスタルジアを巡る壮大な一大叙事詩ともいえるこのシンフォニックな大作は、若い世代のポップス・ファンをも、現代のロックでは味わえない豊かな世界へと誘うだろう。(木村ユタカ)
新smile?
★★★★☆
作品自体は皆様の言うとおり品格漂う素晴らしい曲群だと思います。でも、あの頃に作られていたら今のsmileと全く違っていただろうな〜て思います。アレンジも少し大人しい感じがして、それほど聞き込む気にはなりませんでした…。
伝説を知らずに音だけなら。
★★★★☆
星3つや4つをつけたりしたら、ブライアンファンからぶっ飛ばされるかも知れませんが、SMILEというアルバムの存在を知らずに、60年代に生まれてもいない、80年代後半生まれの自分が聞くと、ブライアンの思い入れが強すぎな気がします。残念なのが聞いていて肩が凝ります。 ラッキー・オールド・サンの方へ自分は良く手が伸びてしまいます。
真実は永遠に霧の中
★★★★☆
スマイルというアルバムは傑作「ペットサウンズ」の評価が高まるにつれ半ば伝説化されていった。
天才・ブライアンウィルソンが精神を病んで完成させることが出来なかったというだけでなく、およそ完成するとは思えないほどの凝りに凝ったコンセプト、次第に明らかになっていく収録曲。
そして何よりあまりに複雑で神秘的な楽曲群。それだけで「時代を先取りしすぎたせいで完成し得なかった悲劇のアルバム」というスマイル伝説を形成するのに十分だった。
個人的に言うと00年代になってスマイルが完成することに若干の不安があった。
内容、ブライアンの声、もちろんそれらも多分にあったが、もっとも大きいのは「スマイル伝説」の終焉に対する危惧だった。
多くの音楽好きが研究してきた、終えることの無かったはずの伝説が遂に完結する。もはやスマイルとはただの音楽の集合体ではなくなっていた。
しかしふたを開けてみればこれはどういうことか、スマイルは三楽章に分かれている。スマイルの最も大きな目玉はthe elementsとthe americanaに分かれた二楽章だったはずだ。
それにラストを飾ると思われたsurf's upは中盤に、実際のラストはgood vibrationsになっている。
これはブライアンの価値観の変化が大きいと思われている。考えてみればすでにコンセプトアルバムというのは当然のものとなっており、後発のアーティストに影響を受けていてもおかしくは無い。
確かにスマイルは完成した。でも謎はまだ多く残っている。66年当時に完成させたとしたら、どうなっていただろうか。前二つの例に加えてもっと言えば、商業的な理由で一曲目はour prayerでは無かったかも知れない。結局、スマイルは完成しても伝説のほうは完結しなかった。
演奏にしても当時の音源と比べると、緊張感、不気味さは全く感じられなくなっているし、声もかなり変わった。現代風の音作りと併せて、楽曲とのギャップが目立つ。ごろついた違和感はあるが、この40年間を総括するような、60年代の雰囲気と最近の雰囲気が混ざった不思議な空気が出来た。
同じように00年代はポップミュージックの歴史を総括するように多くのリバイバルムーブメントが起きた。個人的にこのアルバムの完成は意図せずにその象徴とも言える存在になったように思う。
そして10年代はどんな音楽が現れるだろうか。新時代に期待したい。
「ペット・サウンズ」は4、「スマイル」は10
★★★★★
ほとんど完璧です。メロディ・歌詞・アレンジ・全体の構成すべてが美しく、親しみやすく、なおかつ奥深い。ブライアン・ウィルソンの声の衰えもあまり気にならないです。僕はビートルズのファンでもあるのだけど「サージェント・ペパーズ」なんか足元にも及ばないと思います。ロックの歴史上1,2を争うアルバムだと言っても大げさではない思います。
オリジナルの「スマイル」の音源と比較すると(あるいは当時のさまざまなサイケデリック・ロックの音楽と比較すると)、病的な緊張感がないというのが大きな特徴だと思いますが、僕はこの新しいバージョンの方がずっと好きです。「スマイル」はそもそもそういったものを和らげる目的で作られたものだからです。オリジナルのスマイルが「ニヤニヤ」笑っているという感じなのに対して、この新しいスマイルは「にこにこ」笑っているというような印象を受けます。
個々の楽曲を見ていくと、「ワンダフル」〜「サーフズ・アップ」の「子どもは人の父」をテーマにした第2楽章がなんといっても圧巻です。何度聴いても新鮮な感動を覚えます。
ちなみに、ブライアン自身はインタビューで「ペット・サウンズ」は10段階評価で「4」、この「スマイル」は「10」と評しています。
何かが抜け落ちている
★★☆☆☆
伝説のアルバム=スマイル。これが完成しなかったのはまさに痛恨事であり、これによって時代の流れ、音楽の方向は明らかに変わってしまった。これが完成していれば、くだらない商業ロックがはびこることはなかったろうし、音楽産業の無意味な隆盛と衰退はなかったかもしれない。それくらいの可能性を当時のブライアンは内包していたはずだ。それはリリースされた他の傑作が証明している。ペットサウンズをはるかに凌駕する奇跡の音楽―それがスマイルの見果てぬ姿だった。しかし、スマイルは完成しなかった。このアルバムにも一縷の期待を持たずにはいられなかったが、残念ながら、あの時代に感性がキラキラ輝いていたブライアンが作り出したであろうサウンドはここには存在していなかった。ブライアン自身は、「これがあの時に意図したものだ」と言うかもしれないけれど、形だけが残っていてもその器に盛り付けられていたはずの、閃きと衝撃、心の深いところをかきむしるような切ない情熱はない。失われたものを取り戻すことはできないことを知る苦さがこのアルバムを聴くということの意味だと思う。