「信頼と裏切り」の物語だが信頼の源泉が不明瞭
★★★☆☆
"あとがき"にある通り、題名は元の「うたう警官」の方が良かった。シューヴァル夫妻の名作「笑う警官」と紛らわしい上に、「内部告発」と「ブラスバンド」のダブル・ミーニングの「うたう」の趣向を消してしまった。本作は、北海道警本部と札幌所轄署の刑事達が繰り広げる「信頼と裏切り」の物語である。だが、警察組織の腐敗体質の告発及びそれに立ち向かう刑事達、特に主人公の佐伯の気概を描いたにしてはインパクトが弱い。
道警の腐敗の実態を証言しようとした刑事津久井が婦人警官殺害の容疑者となって、道警本部から射殺命令が下される。津久井が委員会で証言するまで24時間。津久井を信頼する佐伯は非公式なチームを作って、津久井を委員会に出席させるために奔走するというストーリー。タイム・リミットものの一種でもある。一番の要は、佐伯の津久井に対する絶対的信頼である。その理由が一応説明されるが、余りにも簡易過ぎて実感が湧かない。この部分にもっと筆を割くべきではなかったか。「信頼と裏切り」の物語なのだから。このため、他の人間関係にも信が置けず、次から次へとチームに人員を加える佐伯の姿勢も奇異に映る。何が判断基準なのか不明なのである。小説上止むを得ないとは言え、少人数のチームが道警本部よりも先に情報を入手するという不自然さをカバーする工夫も欲しかった。被害者の元同僚に電話するだけとは...。佐伯の人物造形も甘く、自らの命を賭して上部組織に立ち向かう男とは到底見えなかった。全体として書き込みをする対象がズレている印象を受けた。余談だが、私物のPCから道警のDBにアクセス可能なら、それこそ大問題だろう。
頁数の割には骨太との印象を受けない。書き込みをするポイントを外していると思う。滑らかな筆使いだけに惜しい。
警官は笑わない、うたうのです。
★★★★☆
レンタルショップに並んだ、映画化された本作のDVDを見かけ、レビューを書くことにしました。
原作は5年ほど前に読んだのですが、今読み返しても新鮮です。
映画だけ観た方は原作の魅力を堪能できずにお気の毒ですし、映画だけしか観てもらっていない作者もお気の毒に思います。
(映画と原作とのギャップは、本作に限らず永遠の問題ですが)
そして、なによりもお気の毒なのは、本来の『うたう警官』という秀逸なタイトルが『笑う警官』へと改題されたこの本です。
『笑う警官』って、なんだかヘラヘラしてやる気がないお巡りさんのように聞こえてしまいます・・・
とある公園前の派出所みたいな、ギャグとほのぼのなお話ではありませんヨ。
北海道警察で現実に起きた「現職刑事による覚せい剤使用と密売容疑」と「裏金疑惑」の2大不祥事をヒントにした、警察内部の腐敗に立ち向かう少数の警官たちの息詰まる闘い。
身内を敵に回しての"捜査"は、リアルな設定、迫る刻限のスピード感、二転三転する展開で一気呵成に読んでしまいます。
正義の味方!というヒーローではなく、思いがけず組織の闇に巻き込まれたフツーの警官たちの心理描写が巧みなことも物語を際立たせています。
所々の展開や設定にやや無理はあるのですが、深く気にさせないほど引き込まれてしまいます。
この原作を読む限り、ラストにジャズもホイットニー・ヒューストンも流れてきません。
BGMはなく、風もなく、乾いた空気だけがあります。
改題の理由を明記できる情報がないので「『うたう』では意味が分からないから、分かりやすく改題しようとの出版サイドからの"提案"による」とだけ書いておきます。
作者が改題に対してどのような思いを抱いているかはお察しするしかありませんが、題名も作品のとても重要な一部であるだけに非常に残念でなりません。
この原作を読めば、旧題『うたう警官』の秀逸さと、本における題名の重要さをご理解いただけることと思います。
改題したことで★★★★☆としました。
ほんとうは、うたわせるのがお仕事なんですけどね。
楽しめる♪
★★★★☆
札幌市内のアパートで、現職警察官の女性が殺された。容疑者として浮かび上がったのは、
やはり現職警察官の津久井だった。やがて、彼に対し射殺命令が出てしまう。かつて津久井と
組んで仕事をしたことがある佐伯警部補は、捜査からはずされたにもかかわらず、彼の潔白を
信じ、仲間とともに独自の捜査を始める。佐伯がたどりついた真実とは・・・?
警察内部の不祥事を暴かれるのを恐れた上層部は、津久井という危険分子を「抹殺」しようと
する。津久井の身の潔白を証明し、彼を無事にある場所まで送り届けなければならない。しかも、
タイムリミットは24時間。捜査をはずされた佐伯を中心に、津久井の無実を信じる者たちが
集まってくる。限られた時間の中で、彼らは真実にたどり着けるのか?厳重な捜査網をどう
かいくぐっていくのか?津久井の運命は?スリリングな展開が、面白かった。また、警察内部の
描写もとても興味深い。ラストも無難にまとまっていて、楽しめる作品だと思う。
誰かにとってのタイミングは野卑な忍び笑い、誰かにとってのタイミングはピアノの音色
★★★★☆
舞台は北海道道警。他殺体で発見された婦人警官。被害者との交遊関係から、ただちに犯人だと断定されてしまう同僚の刑事。何と
異例のタイミングで射殺許可まで下りる。そのタイミングが誰かにとって都合がよすぎ、反対に誰かにとって......
元相棒にして命の恩人でもある被疑者の無実を信じ救うため、秘密裡に立ち上がった刑事がいた。彼が設置した裏本部には現状に
不信を抱く仲間も集まり捜査開始!メンバーのバランスがいい。ベテラン、新人君、紅一点、ギャグ役。
またこの作品、テンポがよいとかリズミカルに読ませるというより、何度も使うがまさにタイミングの妙だ。だれそうになると、
うまい具合に起爆剤が挿入される。自然に。だがそれは読者視点であって、物語の上では、それらが不自然な違和感として残り
後々までの秘密となる。それにしても時間にすればたった一夜の出来事なんだけど、濃密でドラマチックな展開。息もつかせない。
警察暗部の本質を問題提起しながらも、小難しくはならない。躍動するアクションも満載。なかなか魅力的な警察小説だと思う。
DVD、原作、コミックの中で本作が一番良かったです。
★★★★★
DVDが出たので早速見てみました。大森南朋と松雪泰子のキャスティングはハマっていたと思いますが、映像が古臭く、原作に更にひねりを加えた脚本もイマイチな感じで、角川さんは、製作者としては有能でも、監督、脚本はイマイチなのではないかとの印象です。
コミック版->原作->DVDの順番で見たのですが、原作とコミック版は、イメージが共通しています。原作は、警察小説としての深みはイマひとつという印象もありましたが、スピーディな展開に気持ち良く乗ることができました。一方、コミック版は、枚数の制約もあり、最初から深みは期待できないこともあって、返ってスピーディさ、軽快さが原作以上に効果的に表現され、開始から終了まで、画とコマ割り、セリフともに音楽的とさえ思える引き締まった展開を見せ、パルプコミックとは思えない程の出来となっています。シュガー佐藤さんは、これまで知らなかったのですが、結構キャリアのある方だったのですね。原作のおいしいところを損なうことなく、上手くコミック化できているものと思います。
たまたま私の好みにハマっただけなのかも知れませんし、最初に接触したメディアの印象が基準となってしまうので、最初に読んだコミック版の評価が高くなってしまっているだけなのかも知れませんが、原作の方は既に人にあげてしまったものの、コミックの方は当分捨てられない感じです。