警察小説のひとつの完成形
★★★★☆
待望の文庫化。
前評判が良かったので、かなり期待して読み始めましたが、期待通りの作品でした。
昭和、戦後の混乱期から現在まで、3代に渡る警官の大河小説なのですが、その時々の社会不安の現況。
戦後復興前の混乱期、学生による共産党運動、平成の暴力団の台頭など、戦後の警察記の様相も含まれており、60年以上にわたる日本の犯罪史を作品から垣間見ることが出来る。
その中で、一人一人の警官としての生き方、人間としての職業倫理なども深く掘り下げてあり、特に人物が描ききられている。
その中で3代に渡る血をめぐる大きなテ−マが流れており、作品の骨格を太いものにしており、読み出したらやめられない、面白さがあふれている。
推理小説とも違う、警察小説のひとつの完成形とも言える作品であると思う。
上下2冊、ボリュ−ムは十分!!
そのペ−ジ数に負けない、充実の作品
名作!
★★★★★
終戦後から現代まで3代にわたる警官の人生を世相を交えいろいろなエピソードを交えながら綴った一大叙事詩。しっかりした、揺るぎのない文体が快感であり、最後の最後まで一気に読ませてくれる。数々の謎も最後でないと解けないと言う見事な展開。さすが数々の賞に輝いた作品である。
数々の苦難にあいながらも、主人公3代が自分の人生に、仕事に真摯に立ち向かう姿には本当に感動する。勇気づけられる。普段文句ばかり言っている自分が恥ずかしくなってしまう。
下巻最後エピローグでの和也を描いたところは涙が出るほど感動的である。
直木賞受賞で再度盛り上がっている今、是非ともお勧めする小説、本当に名作!
三代に渡る物語は読み応えあり
★★★☆☆
三代にわたる警官に関する物語で、読み応えのある小説である。
佐々木氏の小説は、実は読むのが初めてであるこを前提に書かせてもらうが、本作に関していえば描写が丁寧であり、ディテールにリアリティがあり好感が持てる。特に戦後の谷中や学生運動さなかの時代風景の描写は格別である。瑣末的で細かすぎるわけでもない点ところがこの作家のバランス感覚か。
一方で、描かれる人物は淡白な描写を受ける。主人公たちの人生に対する目的や受容の仕方は、ある意味で悩みがなく芯が通っている。彼らの生き方には、清涼さを感じるものの、生ずるドラマが散発的で読者にとって意味をみつけにくい。
しかし、彼があえて「血」というものを題名に持ってきた理由は明白である。代々受け継いだ「血」は、警官になることを通して描く自分の周りの小さな人生そのものであり、祖父や父が背負った人生を精算しながら自らも受け継ぎ濃くしてゆくという、人間としての連綿とした生き方である。代が変わるに連れて、清濁併せ持つキャラクターに磨きがかかっていく様は見事である。
事件はここでは脇役でしかない。従って、ミステリーの真相が肩透かしをくらうようなものであったとしても、それゆえにこそ、といったところなのだろう。見事である。
警察の闇の部分をも描き切った傑作
★★★★★
警察官三代で一つの事件を追う大河小説です。
先ず、初代は安城清二で天王寺駐在所に勤めますが、謎の死を遂げます。
二代目は、民雄。
駐在所勤務を望みながら、公安部の指示の元、北大の赤軍派組織に潜入し、功績を挙げますがPTSDに罹り苦しみます。
それでも、父親と同じ天王寺駐在所勤務になり、父親の汚名を晴らそうとしますが、殉職を遂げます。
三代目は、和也です。
こちらも警務部の指示により、ある刑事の素行を内密に調査することになります。
そして、捜査の傍ら祖父の追いかけていた事件と祖父の死の事実を突き止めます。
そして、三代にして得た教訓は、「被害者の出た犯罪と被害者のない違法行為と」を天秤にかけて、どう対処すべきかを即座に判断するのが、現場の警官であるということです。
更に、「白と黒との境目の上」に立って捜査をしており、市民からの指示がある限り続けられると言う見解に至ります。
この本の面白さは、綺麗事だけではすまない警察の闇の部分を描ききっていることと、それが三代の警察官を通して、うねりの様な大きな波となって読者をその世界に呑み込んで行くからでしょう。
そこには、作者の素晴らしいテクニックとストーリー・テラーとしての力が、大いに貢献している訳です。
とにかく、楽しく素晴らしい「時」を与えてくれる「警察小説」です。
これはすべての日本人の物語だ
★★★★☆
寝食を忘れて一気に読了。ミステリーとしては肩すかしがある点、和也パートが深みに欠ける点から4点としたが、これは単なるミステリーというよりは、戦後の日本人、我々の祖父母、父母、そして私たち自身を描いた一大大河小説として読まれるべきであろう。個人的には、どこまでも哀しい民雄のエピソードに涙、涙。