冷静で抑制のきいた分析
★★★★★
実は八ツ場ダムだけをきちんと取り上げた書物は意外に少なく、本書は問題点が多角的に論じられていて「八ツ場ダムもの」としては決定版と言っていいと思う。治水、利水、八ツ場の歴史、日本のダム行政など八ツ場ダムのほぼ全容が理解できる。ニュースで八ツ場に興味を持った人、初心者でも十分に理解できる内容。
前原国土交通大臣が現地におもむく場面からスタートし、民主党の政策提言もフォローするあたりは時宜に合っている。
立場としてはダム反対を明確にしているものの独善的でなく、先人の研究書や現地住民の声も丁寧に拾い上げている。こうした類のテーマだと、感傷的な筆運びになったり、一方的な断罪に終始するケースもあるが、本書は抑制のきいた文章で、冷静に状況分析をしている点が好感を持てる。その分やや面白みに欠ける感は否めないが、変にあおりたてるものより説得力があるだろう。
各種データ、政府見解など最新のものなので、八ツ場ダム関係、あるいはダム行政について一冊なにか手に取るとしたら、本書が適当。