ロック・スピリット&ゴースト・ストーリーの絶妙のコラボレーション。
★★★★☆
2010年に映画化が決定しているアメリカ・モダンホラー界の新鋭ヒルの長編第一作です。彼の父はホラーの巨匠スティーヴン・キングなのですが、その事実は隠されていて、現在の成功は親の七光りではなく純粋に実力の結果だという事です。本書は著者が幼少の頃から愛好しているロック・ミュージックに触発されて書かれた物語です。主人公ジュード・コインはロック界の往年の大スターという設定で、彼の2頭の飼い犬アンガスとボンは、ロックバンドAC/DCのメンバーの名前から取られています。そして本書の題名ハートシェイプト・ボックスは、ロックバンド・ニルヴァーナの書いた曲名で、暗く陰鬱な死を歌った楽曲とあって著者の選択は的を射ているといえましょう。物語は非常に現代的で、インターネット・オークションで落札した‘幽霊に憑かれたスーツ’が災厄を運んできます。怪しい老人クラドックの幽霊が出没し、彼はジュードが昔捨てた後に自殺した女アンナの義父で、娘の復讐を果たそうとしているらしい。ジュードは今一緒に暮らしている女‘ジョージア’を連れて、スーツの出品者でアンナの姉の家フロリダ州へ向けて旅立った。
ロックヒーロー・ジュードの愛情生活や幼い頃の父との確執が丹念に情感を込めて書かれている所為でしょうか、文庫本で600頁を超える大作となっていますが、私の考えではもう少し刈り込んで書いてくれれば良かったと思いました。邪悪なクラドックの幽霊は恐ろしい存在感十分ですが、動機の部分で若干疑問が残りました。クライマックス・シーンはグロテスク一歩手前で踏みとどまり、幻想的な印象で映像化に期待が持てます。最後は愛情に目覚めるジュードの姿が感動的で、読後感を爽やかにしてくれます。続いて刊行予定の高い評価を受けた著者のデビュー短編集も楽しみに待ちたいと思います。