趣味の良い美食
★★★★★
美食作家といえば池波正太郎の名前があがる。美食映画監督といえば黒澤だ。しかし、わたしは池波正太郎や黒澤監督のお薦め料理を食べて、おいしいと思ったことがない。おそらくご両人ともに関東の人なのだろう。その好む味は切っ先がするどく、関西人の舌には攻撃的にすぎる。
対して立原正秋の好む料理は地域的な、あるいは名店という特性にとらわれた閉鎖性がない。広くまろやかでゆったりとしている。塩味よりもだしが主体の味付けを感じさせる。その繊細な味覚は実の息子をプロの料理人に育ててしまったほどだ。
本作は正秋の息子潮が、父との思い出とそれにまつわる料理を紹介したもの。
読むだけで、胃の腑がしみじみと満足する、やわらかみのある写真と文章が素晴らしい。