座右においてみていたい本です
★★★★★
何10年も前に、水道橋の本屋で見て以来、気になっていたのですが
文庫本になって初めて読みました。
ゲームの公式がびっしり詰まった本かと思いましたが、予想外の、易し
そうな、授業で話しているような書き方の本でした。
初めの章には、経済学への数学利用について、可能性と必要が説かれて
います。
ここだけでも、面白いです。
講義のような書き方なので、ゆっくりと、時間をかけて読むのがよいと
思います。あるいは、友達と一緒に読むといいかもしれません。
それに、現在では、初めに、コンパクトな解説を読んでから、またはじ
めから読むといいと思います。
まん中ごろに、とてもわかりやすい、凸集合と超平面の解説があります。
ゆっくり読む計画を立てれば、何か読み物の感じで読めると思います。
古典の復刊
★★★★☆
原著は2年前に刊行60周年という事で記念する版が出た(Theory of Games and Economic Behavior (Commemorative Edition))が、この翻訳は、東京図書から1972-73年に掛けて翻訳された物の文庫のようだ。原著60周年版にはHarold Kuhnの前書きとAriel Rubinsteinの後書きなどが含まれている。そういう意味では、この文庫版は残念。ただ文庫版解説というのが、第3巻目につくようなので、それを見ない事には判断できない。文庫1巻目を見ると、誤植などは訂正されていると思うが、追加や訳注は無いようだ。用語も、最近使われている物とは違うような気がする(「零和」は「ゼロ和」になっているが「ゼロサム」としてない)。とは言うものの、文庫で読めるというのありがたい。
バイブル復活
★★★★★
後の経済学に絶大な影響を及ぼした本書は、人間行動を数学的に記述することを試みています。著者らは、今まで経済学において数学が適用されてこなかったのは、経済学の問題が定式化されてこなかったことと、経済における経験的事実(すなわちデータのことでしょうか)がきわめて限られていたことにあると説きます。フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンは、物理や化学など、数学がいまや主要な分析道具になった分野においてさえも、事象を数学的に記述することは不可能だ言われた時期があったのであり、人間行動においてはそれが不可能であるということはできないと主張します。著者らはまた、物理学における数学の適用過程に微積分が生まれたように、新たな分野に数学を適用する際には、数学そのものも進歩するのだと述べています。
そんな人間行動を数学的に記述する書と聞くと、壮大で大上段から事物を論ずるような本を想像しがちですが、著者らは、分析は地味で控え目なものと述べています。しかし同時に、分析の対象が地味であることは、その研究の価値が低いことを決して意味しないと著者らは説きます。次の文章には、一度ならず繰り返し読む価値があると思います。
「どのような科学においても偉大な進歩が生ずるのは、究極の目標に比べて控え目な問題を研究してゆく中で、後にますます拡張されてゆくような方法が開発された時期である。自由落下は全くありふれた日常的な物理現象であるが、力学が生みだされたのは、まさに、この実に単純な事実の研究の結果であり、それを天文学のデータと比較考量したおかげであった。」
そして、次の文章は、僕が普段行っている仕事と関連しても、また、研究一般においても、非常に重要な心構えについて述べていると思います。当たり前の事柄を厳密な形で記述することを積み重ねることによって、理論は経験的な「常識」を上回る可能性を有するに到るのですね。
「理論が最初に適用されるのは、結果が自明であって、しかも理論など実は必要としないような初歩的な事柄でなければならない。この初歩的な段階での適用は理論を補強するのに役立つ。つぎの段階は、理論が多少複雑な状況に応用されるにつれて展開されてくる。この段階までくれば、理論はすでに、自明なことや常識的なことをある程度超えた結果を導いてくれる可能性がある。この段階では、理論と応用とは互いに他を補強しあう。この先に真の成功の領域が横たわっている。つまり、理論による正真正銘の予測がそれである。周知のように、数学化されたあらゆる科学は、これら一連の発展段階を通過してきたのである。」
待望の文庫化
★★★★★
さて、ゲーム理論を構築したノイマン、モルゲンシュテルンの原著の翻訳がありましたが、長らく品切れで再版されませんでした。今回、3分冊で文庫化で名著が戻ってきました。既に評価の定まった本だけに多くを語る必要はないと思います。ゲーム理論はここから出発した原典が文庫という形で一般の人向けにも手に取ることが出来るようになり、益々ゲーム理論ならびにノイマンの仕事について考えて見ましょう。筑摩書房の嬉しい企画です。