ひとりでいる孤独と、ふたりでいる孤独と
★★★★★
評価は好悪とは無関係に、「江國香織、恐ろしいほどうまいな」と感じたことに敬意を表して。
好悪で言えば、キライだ…
内容的には、以前に読んだ、同じく江國香織の「スイートリトルライズ」という長編を彷彿とさせられた。救いようのない、絶望的な夫婦関係が描かれた短編集なのだが、猟奇殺人があったり不治の病で死ぬ人があったりは全くしないのに、読み終えてここまで落ち込める本も珍しい。「トラウマ連作短編集」と名付けたい。
しかしその関係における双方の不能感などよりもはるかに恐ろしいのは、これが「ある種のしあわせ」として描かれてしまっていることだ。日和子は「憐れみを覚える」のだ。独身の、身を焦がすような恋をしている友人に。あるいは猫だけを相手に独居暮らしをする老女に。そこが恐ろしい。この日和子の心の動きに共感する・しないは別として、こういう心の動きそれ自体が「人間がどれほどまでに孤独な存在なのか」ということを実に饒舌に物語っているようで、そこに空恐ろしさを覚える。「ひとりで孤独であるよりは、ふたりで孤独な方がまだ救いがある」ということか。不毛だ…ぞっとする。
本書は淡々とした、(ことばの上では)むしろ抑制の利いた・寡黙な筆致で、こういう生活の中のホラーの核心を恐ろしくも・物騒なほど鮮やかに、抉り出している。恐ろしくというのは文字通り恐怖を喚起させるほどに、という意味だ。私としては、これはホラーであり、絶望的な悲劇だと断じたい。
巻末の解説を読んで、納得する部分あり、違和感を覚える部分あり。受け止め方は、価値観によって人それぞれとなるであろうところも、著者の文章の懐(闇?)の深さ故だろう。
しかし、あー、無理です。夫婦であれ恋人であれ友人であれ、私はこういう「人との関係の在り方」は生理的に受け付けない。というか、このダンナの「逍ちゃん」は、たぶんADDとか、なんかそーいうレベルなんではないかと思う。宇宙人である。言語で世界を構築することが生き方の基盤になっている私は、こういう宇宙人とは、あらゆる種類の「人としての関係」を結ぶことは、絶対にできないだろうと思われる。同じく、一日の終わりに、その逍ちゃんの元へ、「孤独になるために」帰ろうと急ぐ日和子のような人間とも。
何故かぐいぐいと読んでしまう
★★★★☆
結婚生活10年くらいすると普通、子供がいれば忙しくてチラっとかすめる夫婦間の
歪みも深く考えている暇はない。前に前に進まなければいけない日常があるから。
ここに出てくる夫婦は子供がいない〜でも、そのことをお互いに不幸だと言っている場面は
ない。お互いのことばかり見つめてると息が詰まると思うけれど、結局外で色々やってみても
やっぱり家がいいなぁって感じのエピソードがあり・・・結局どっちなんだ?ってハラハラしたり・・・ひんやりした空気が漂ってみたり・・・男女って好きで結婚したはずなのに期待していたようにならないことに腹を立てる。いっそ期待しなければ楽なのにソレは難しいことなのだ。だから本当に思っていることは言わないほうがいいな〜と思った。小説でも本当のことは言ってないし。とにかく完璧なんてないんだと思っていれば・・・許せないことがあれば
言うべきだけど言ったところで変わるのか?ということはある。
一番近くて遠い存在なのかもな〜
きっとこうなるのだろうなあ、と思った。
★★★★☆
妻と夫。
2つの生き物の間にある深い河と、互いに特別になった相手への安心感をたくみに表現した短編集。
夫はまだいませんが、
おそらく、こういう気持ちになるのだろうなと思う。
分かり合えていて、分かり合えていなくて、
いてほしいけど、いてほしくない。
普通の夫婦ってこんな感じなのかも(間に子供がいると違うかもしれない)。
我が家と照らし合わせ
★★★★☆
14の短編の連作でそれぞれちょっと空いた時間に読むにはちょうどいい長さ。
なのですが、、つぎつぎ読み進めてしまいたくなる本です。
この作品の背景と同じような「年代」、「子供いない」、「共働き」の私には主人公夫婦に対して他人とは思えない感情移入がしたのでしょう。
(いつも生返事の「夫」は私に近いものがあるかも)
妻の日常の心情や、妻から夫への不満、夫への愛情の疑問がメインで書かれていており、短編のいくつかは夫が主人公となる話もとりまぜてある。
最終の2話は同じ一日の出来事をお互いがそれぞれ主人公となる話でしめくくられており、夫婦ってこんな感じでお互いを思いあって毎日暮らしているものなんだろうねと改めて考えさせられた。
「うまくいっている夫婦って案外こんなもんかもよ」と、
ちょっと我が家の妻にも読ませてみようかな?
ある意味「結婚生活」とはこういうことかも
★★★★★
答えの出ない、答えをあえて出さないことが
「美徳」のような部分に触れた1冊。
だからこそ、既婚者にはピタッとくるはず。
そのテーマに触れておきながら、主人公とと
もに悩ませておきながら、答えは出さない…
いや、答えは出せないのかもしれないし、
答えを出す必要のないことなのかもしれない。
他人事であれば、そんなバカげたことをと、
思うかもしれない。でも、知らぬ間に答えに
触れられなくなった夫婦はごまんといるだろう。
だからこそ、この物語の先に、もう少し年を
重ねた主人公の夫婦がいて、現実的には女性が
何かにふっと気がつくのが普通で…「熟年離婚」
へ結びついていくのだと思う。
そんな回答のない、はがゆい物語…江國さんの
世界である。