旅立ちの時季
★★★★☆
実が熟する時といえば、なんとなく子をなし、育てる世代をイメージしていた。だから、読み始めて、主人公が学生であることと、タイトルがうまく結びつかずにいた。
読み終えて、私のイメージは「木」を主体としていたことに気づいた。
主人公に重ねられるべきは実を蓄えた木ではなく、熟して地に落ちんとする実そのもののほうだ。
明治学院での学生生活。初々しい、無邪気な時代が過ぎつつあるところから小説は始まる。信仰に挫折し、勉学に挫折し、年上の女性への恋が終わったところから始まることになる。
自分自身の命を延べようとして、初めて自分自身の足で地に立とうとする、そういう季節を描いている。
そういった愛着関係での不全感、自己の中での達成や成功への欲求の不全感が渾然となりつつ、やがて熟していくのだ。