奇妙な筋立ての過程を楽しむという読書の味わいを教えてくれる傑作集です。
★★★★☆
幻想奇想に満ちた不条理な物語世界を構築し後世の作家に影響を与え続ける現在のチェコ出身のユダヤ系ドイツ語作家カフカの全中短編を新たに訳し直しテーマ別3冊に編集する企画の第2巻「運動・拘束編」です。本書を読み終えまして全26編を統一するテーマを明確に説明する事は難しいですが、全体の頁数の3分の2を占める帯に書かれた5つの中編は非常に読み応えがあって力作と呼ぶに相応しい作品群だと思います。振り返って前巻の第1巻を読んだ時に私が感じたのは、著者が結末の意外性に全く拘らない作家であるという事でしたが、本書を読んで改めて思ったのは一歩進めて著者が物語には終わりなどありえないと考えているのではないかという認識です。本書の作品『ある断食芸人の話』を例に取りますと、物語は主人公である断食芸人を中心に展開して行きますが、遂に彼が死んでしまっても物語は閉じず、見物人達の興味が新しく檻に入れられた豹に移って行って、結局対象が変わっても奇異な物への大衆の関心は続くという永遠に終わらない物語の可能性を感じさせます。こういった著者の創作に対する姿勢を認識し慣れて来ると、例え物語が中途半端で終わっても全く不満を覚えなくなり奇妙な筋立ての過程を楽しむという読書の味わいもあるのだなと気づかされます。
『流刑地にて』:微罪であっても単純に死刑に処される無慈悲な古代法と残酷な処刑機械の恐ろしさに慄然とします。本編にも明確な結末はなく、著者が構想した2パターンの断片的な続きが終わりに付けられていて、興味深く得した気分になるでしょう。『巣造り』:男の執念に満ちた作業への拘りが際限なく繰り返される理屈めいた文章を読む苦痛に襲われますが、何処まで行っても不安を払拭し切れず悶々とする男の終りのない苦しみに次第に深い憐憫の情が湧いて来ます。
いよいよ真打ち登場の感がある著者の本領の第3巻「異形・寓意編」にも期待したいと思います。