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カフカ・セレクション〈3〉異形/寓意 (ちくま文庫)

価格: ¥998
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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カフカ・セレクション3<異形/寓意> ★★★★★
フランツ・カフカの物語群は、奇妙な、異様な、物によっては異常な世界を語ります。
その世界に、多くの動物や虫、空想上の生き物が棲息しています。
そんな、「動物もの」と言えそうな物語ばかりを、この本は1冊にまとめています。
その中の代表作は、なんといっても『変身』でしょう。

『変身』が代表作なのは、その異様さがまだわかりやすい部類に属し、完結しているからかもしれません。
『あるアカデミーへの報告』などもそうです。
完結していても『歌姫ヨゼフィーネ』や、未完の『いかにわたしの生活は』などは、わたしにはいまだに消化不良を起こさせます。
頭がこんがらがります。
それでも、その異様さには、得体の知れない力があります。
それに、吹き出してしまいたくなるユーモアもあります。
モグラ(らしきもの)が主人公の『巣造り』は、セレクション2に入っています。

わたしが感じたこの本のいいところは2点あります。
第1点は、上に書いたように、少なくないカフカの「動物もの」の多くを、全集をあっちこっち探し回らずに読めることです。
(物語が書かれた年や、原文の出典なども載せておいてくれたら、ありがたかったのですが。)

もう1点は、訳が正確だと思えることです。
たとえば有名な『変身』の全体の4/5過ぎくらいの所。
3人の間借り人がつまらそうに聴いている妹のバイオリンを、巨大な甲虫と化したグレゴール・ザムザがこっそりと、感無量の面持ちで聞き入っている場面があります。

最近出たある訳では、
「獣だからこそ、それで音楽がこんなに身にしみるのか?」
この本の訳では、
「こんなにも音楽に心がとらえられているというのに、俺は虫けらなんだろうか」

二つを比べると意味が正反対です。
この箇所だけに限定してですが、浅井健二郎氏の訳はおそらく少数派です。
こう決定するには少し勇気がいったことでしょう。

カフカの文には、ある独特の読みの難しさがあります。
この箇所もその一つですが、異様な世界が語られるだけに、罠を仕掛けられているようなものです。
しかし読者にとっての罠に見えるものは、カフカが見た世界が仕掛ける罠だとすれば、この異様さは、放っておけない異様さでしょう。
訳者はわたしが不思議に思っていたいくつかのことを、納得させてくれました。

ひとつ「おやっ」と思ったのは、タイトルに含まれる『寓意』という言葉です。
カフカの「動物もの」は寓意なんだろうかと思ったからですが、これはもうレビューの外の話しです。
奇麗事でない人間性の真実を教えてくれる貴重な作家として読み継いで行きたいです。 ★★★★★
ありふれた日常が歪みを見せる不条理な小説世界を構築し後世の作家に影響を与え続ける現在のチェコ出身のユダヤ系ドイツ語作家カフカの全中短編を新たに訳し直しテーマ別3冊に編集する企画の第3巻「異形・寓意編」です。本書には代表傑作「変身」を初めとする著者の動物ジャンルの作品群19編が収められています。著者の作品には動物が登場する割合が非常に多いらしく、ペットとして愛好されていたのかどうかは不明ですが、作品を読むと人間とは本質的に違う性質の神秘的な存在ととらえ深い興味を持たれていた事が窺えます。本書中で長さと内容共に読み応えのある四編を紹介します。『あるアカデミーへの報告』『歌姫ヨゼフィーネ、あるいは鼠の族』『いかに私の生活は変化したことか』:この3編は、それぞれ猿・鼠・犬が擬人化され人間の知性を獲得して動物としての論理を展開する物語です。既刊2冊を読まれた方にはお馴染みの著者得意の偏執的な論理の追求が際限もなく続きます。経験上、体調が悪いと読むのが辛いかも知れませんので体調万全な時に読まれる事をお奨めします。けれどもこの一見苦痛に思える頑固な作風も満更捨てた訳ではなく、物語が何も目指していず最後に何も達成されないだろうと薄々わかっていても、最後まで論理が破綻せず物語が完結した瞬間には不思議な感動が込み上げ、やったね!と著者を賞賛したい気持ちになります。『変身』:働き者で一家の家計を支えて来た長男が或る朝突然虫に変身してしまって働けなくなり、老父母と妹の家族から一変して疎まれるというお話です。これは因果応報の教訓物語などではなく全く不条理劇その物で、人間とは本質的に醜い物を忌み嫌う性質を持っている生き物なのだという事を残酷な真実として描いています。著者の作風はユーモアがなく寧ろ暗い物が多いですが、奇麗事でない人間性の真実を教えてくれる貴重な作家として読み継いで行きたいと思います。