時代の趨勢にマッチしながらも産業組織論にも触れているアカデミックな啓蒙書
★★★★★
著者は米国ロースクールに留学経験あり、公取委で実務経験もあり、学者としてだけではなく実務家としての視点からも競争法たる独禁法の来し方行く末を解説しております。
最近の審判決の動向もフォローしており、私訴が活発になることで透明な競争のルールが形成されることを期待するなど時代の趨勢にマッチした内容となっています。とはいえ、独禁法制へのシカゴ学派の影響といった産業組織論からのアプローチもあり、一般的なビジネスマン向きというよりちょっぴりアカデミックに学びたい人間向けでしょう。
個人的に感じた長所・短所
★★★★☆
まず、冒頭で公正取引委員会の勤務経験が述べられています。
類書にはなく、また独禁法の執行されるイメージを喚起する優れた導入だと思います。
第一章のアメリカにおける競争法の発展過程、
とりわけハーバード学派からシカゴ学派への覇権の移行、
また、第二章における日本独禁法の運用の歴史なども、
独禁法を世界的・歴史的な視点から俯瞰する機会を与えてくれる、
本書の優れた特色だと思います。
また、巻末の索引も読者にとって非常にありがたいです。
他方、第三章などは独禁法既習者ではないと、
密度が濃くてとっつきにくいと思います。
また、ところどころ一文が長かったりして読みにくいです。
さらに、ごくごく個人的には、
著者が「独占禁止」よりも、あくまで「競争」法を志向し、
弱者保護を社会保障法などに丸投げしてしまっている点、
グローバリゼーションにもろ手を挙げて賛成している点が、
ちょっと好きになれません。
ともあれ、独禁法学習者には、
白石教授の「独禁法講義」(有斐閣;図表豊富・読みやすい)と並んで、
座右においていただきたい一冊です。
元公取委員が書いた本
★★★★★
筆者は一橋大学大学院の教授ですが、公正取引委員会で実際に7年間審査にあたった経験をお持ちです。独占禁止法の運用について、新書という枠組みの中で網羅的に書かれています。米国とEUの動向、日本の独禁法、独禁法適用の実際例など、かなり密度の濃い内容です。米国のみで機能してきた法律がようやく日本でもある程度機能するようになった現実を詳細に書いています。