しろうとの美学
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「いったい絵というものは、解るとか解らないとかいう前に、ひと目で、見る者に頭を下げさせるようなものがなければ絵とはいえない」というのが氏の持論だが、全くその通りだと思う。
ワイエスの「過ぎて行く時間のある瞬間をまざまざと感じさせる」光線と空気感を賞賛しているのだが、どうやらワイエスは所謂くろうと衆に評判が良くないらしいと述べる。氏は儚さや移ろい易さといった物語的、文学的な言わば古臭い絵画を超絶技巧でやられる事が「こうあらねばならぬ」分業的専門的絵画をよしとするくろうと衆には気にくわないのではないか、と推察する。そして、私はしろうとなので「くろうとが気にするようなことを苦にせず、くろうとの味わえない楽しみを味わうことが出来る」と言いくろうと的な衒学趣味に堕さない。思想で投獄されていた氏は、凝り固まった考えに対して敏感である。当たり前に絵を楽しみ、それを平易な言葉で語るのが何とも心地好い。