原著も手にとってみたくなる
★★★★☆
日本の精神医療は薬物療法全盛の時代だといわれている一方、フロイト=ラカンの精神分析がまだ言論界にて活かされているものの、ことに「ユング」というワードはあまり聞かれなくなった。もしかしてその状況には、この人の死が多分に影響しているのかもしれない。この『ユング心理学入門』新装版は、岩波文庫の河合隼雄氏の“心理療法”コレクション第一弾として、子息の俊雄氏によって編集されたものだ。
評者はフロイト=ラカンの方の著作は原著入門ともに読んだことはあるが、「食わず嫌い」はよくないと言うことで最初に手に取ったのがこの本。本書では、ユングがカウンセリングにて重視した内向/外向、4つの心理機能、コンプレックス、それからアニマ/アニムス、ペルソナまで、初学者でもどこかしらで聞いた覚えのあるキーワードを、ユングらの著作だけでなく、著者本人のカウンセリング経験も多分に例として提供しながら解説してくれる。
フロイトとユングの違い。本書でも盛んに取り上げているが、フロイトが性欲動を何よりもその理論的基盤に置いていたのに対して、ユングはそうではない。またこれは著者自身繰り返しているが、フロイト=ラカンにおいては無意識(もしくはエス)というのは、人間の抑圧された暗部的な扱いであったが、ユング派にとって両者は相補的なものなのだ。しかし、ある意味もっとも両者の異なっているのは、ユング心理学は人の性格に重きを置いているということだ。フロイトは個人の性格をあまり重視しなかった。彼が興味を示すのはあくまで症候だ。
下世話ではあるが日本では「精神分析」は高尚、「心理学」は通俗という(あくまで)雰囲気がある。初対面の女の子に精神分析を研究しているというと、心理学ですか?と勘違いされる。雑誌などでも目にする文字は、あくまで「心理学」だ。ここの状況、実は両者の質的なレベルのちがいというよりも、ユングの論じた性格の方が一般的にとっつきやすい身近な話だったということに過ぎないのかもしれない。
ちなみに解説は、今売れに売れているもじゃもじゃ頭の脳科学おじちゃんが手がけている。