主人公は、今回、海峡艦隊に配属され、フランス大西洋岸のブレスト軍港を監視しつづける。本国とは目と鼻の先だが、一刻も監視を怠るわけに行かず、新婚の妻と会う暇もない。
海洋国としてみた場合、フランスは港に恵まれなかった。また、いくつもの海に接していることから、シーパワーが分断されやすかった。
ブレストは海上に突き出した半島の先にある。だから物資や人員を運ぶにも、海上を経由するほかない。港の奥に居座る戦列艦やフリゲートは物資不足、人員不足のためか、マストや帆の艤装が進まず、海にでられない状態でいる。
そこへもっとも取るに足りない小艦であるホットスパー㡊港口すれすれまで危険を冒して近づき、フランス側の変化を毎日探る。あるいは漁船を買収して情報を得る。
ときおり、ブレストへの侵入を図る輸送船や、脱出を図る戦隊を、主人公は賢く察知して撃破する。しかし、戦略のわかりすぎる主人公は、フランスの企図を潰すことに懸命で、自己の損得は二の次である。拿捕賞金制度を有害とさえ考える異端児だ。
しかも彼は恐怖の何たるかを知り、船酔いに悩む。決して勇ましくない、弱きものへの理解あふれる英雄だ。
新妻や義母は、お金のことは気になるのだが、自分の船を持つ満足感や緊張感を理解することは無理だ。大西洋の新鮮な空気のすがすがしさ、解放感、挑戦するワクワク感などに、共感することはできない。そのあたりが、海好き・船好きの読者には、もどかしい限りである。願わくば、彼の結婚生活が少しでも幸せであるよう、祈るほかない。
軍人でありながら自分が死ぬことを恐れ,そして人に弱点を見られるのを嫌がる,人間味タップリの人物の物語です.ただ強い人間でなく弱くても守るものがある強さの人のお話です.