テディ・ウィルソン、ジーン・ラミー、ジョー・ジョーンズをバックに、レスターがワンホーン編成でスタンダードを悠然と吹いている56年録音作。レスターは30年代に頭角をあらわし、30~40年代に全盛期を迎えた人で、亡くなったのは59年。したがって、本作はピークを過ぎた晩年の録音ということになる。晩年のレスターは酒と麻薬でボロボロになっていたが、それでも本作と『The Jazz Giants '56』は、例外的に素晴らしい作品としてファンに支持されている。
1曲目を聴いた瞬間、これが56年のレスターかと一瞬疑うほど、生き生きとしたプレイを聴かせる。加えてテディのピアノが絶好調で、老兵レスターを優しくサポートしている姿が美しい。曲は手慣れたスタンダード、そして共演者は気心の知れた仲間とあって、レスターはリラックスした雰囲気のなか、マイ・ペースの演奏を聴かせる。全盛期の閃きに満ちたレスターも素晴らしいが、こういうしみじみ、ほのぼのとしたレスターもまた格別の味わいがある。(市川正二)
満腔の敬意
★★★★★
1956年録音作品。これは誰でも気に入る名盤だと思う。類まれなカリスマ性を持ちながらも、時代が求めたジャズと価値基準がズレていた
為に、正当な評価どころかさんざん揶揄されたレスター・ヤング。だがそんな彼をひそかに敬愛してたのがバードことチャーリー・パーカー。
そんなこんなで時代が変わるのよ。それはとりもなおさずレスター・ヤングこそモダン・ジャズの父ということだ。
ただせっかくの時代が到来しても、兵役での精神的ダメージなど様々な事情から、彼には浮世の波にのっていく力は残されていなかった。
それこそずっと酒に溺れているような状態であり、下り坂の一方だ。だから良いコンディションなんて廻ってきやしない。
それでもさ、こんな名演を残してくれるんだから役者は違う。とても心地よい一枚。心地よい音色。まるで蒼穹にでた虹のような爽快さだ。
と同時に、それがかすれていく儚い美しさも感じてしまう。。
リズムセクションはピアノのテディ・ウィルソンやドラムのジョー・ジョーンズというスウィング期の大物。それにベースのジーン・ラミー。
ここでのテディ・ウィルソンは何か絶好調の感がある。軽快にスウィングしてるが刺激もたっぷり。彼らしい甘い情感のおまけつき。実に素敵。
音がいい一枚なので、モダン以前のジャズプレイヤーはどれを聴いていいか判らないなんて人がいたらこれを選んで大正解!
気軽に楽しめる。そして自然とあふれんばかりの敬意を表したくなる一枚。
聴き惚れてしまうクリーミートーン
★★★★☆
無闇矢鱈なブローよりもクリーミートーンで表現されるレスターヤングの歌心に溢れる
メロデーライン、琴線に触れる音楽になっていると思います。テディ・ウイルソンもアシストしながら
主張する絶妙のコラボですね。プレス独自の世界が繰り広げられてつい何度も聞き惚れてしまいます。
最後のかがやき!
★★★★★
レスター最後のかがやきである。
Pres(プレジデント)と呼ばれた男の花道だ。
ピアノのテディにとっても久々の快演であり、
ドラムのパパ・ジョー・ジョーンズにとっても然り。
全員奇跡の往年の絶好調ぶりである。
諸兄はジャケットのレスターが首をかしげていないことに
気付いているだろうか? 斜に構えてマウスピースをずらすのが
レスターのスタイルだったはずである。
でも、ここでのレスターはかっこつけをやめたのだ。
いや、無意識にふっと“素”に戻ったのだ。
レスターの素顔がかいま見える最後の熱演。
ビリーも唄った「All of Me」に泣けてくるのは僕だけだろうか?
VerveそしてGranz
★★★★☆
50年から60年台のバーブレコードのジャズは、時代のトップアーチストや新進気鋭のメンバーが揃いどれもが素晴らしいでき。
このプレス&テディもしかり。プロデューサーのノーマン・グランツのセンスの良さも、カルテットの素晴らしさと同様讃えなければ。
老人の日向ぼっこのような
★★★★★
もう少し若い頃は、チャーリー・パーカーみたいな「インプロヴィゼイションに命を張ったスリルと興奮」こそがジャズだと思ってた。聴き流せる様な音なんてジャズじゃない、と。でも、本当に豊かな表現って、このレコードのように、聴き流しても耳障りじゃなくある種のムードに浸れ、じっくり聴きこめば聴き込むほど味わい深い・・・そんな音楽なんだなぁと最近はつくづく思うようになってた。
それにしても芳醇な演奏。まるであと数年で人生を終えることが判っていて、なおかつ駆け抜けてきた自らの人生を悔いもせずのほほんと振り返る、老人の日向ぼっこのような・・・ほのぼのとした味わいの中にせつなさを感じさせる、特別な「うた」が聴こえてきます。