12年かけて、二人の天才が完成させた『坊ちゃんの時代』の人間群像とその時代に驚嘆!!
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まさしく『坊ちゃんの時代』。
あの時代、多くの魅力ある人材がうごめいていた。それを 全員 登場させ、あの時代を生き返させんとした野望。脚本の関川 夏央、そしてそれを画として完成させていった谷口ジロー。気の遠くなる話し。特に、絵にしていった谷口ジローはいかにしんどかったかと想像する。逃げないで、ついに完成させたのだ。実に12年間の長い年月がかかった。「未知の世界」に挑戦し続ける、粘り強さ、感性、創作力。
私は この作品にであったとき驚愕した。既存の「漫画」とは異なるジャンルの出現と感じた。
二人は 新しき物作りにおのれの人生の一番元気な時をかけた。こうして 私たちは 日本国で最高の作品と出会う幸せをえることができた。
関川 夏央と谷口ジローが作り上げた 過去の「日本漫画」を止揚した「宇宙」の登場。(これを 感動といわずして何を感動といえるのか。)日本国で これ以上の 「創造物」にまだ会ったことはない。日本に新しい文化が誕生したのだ。このことを確認し、二人の創作者に 感謝したい。世には偉大な人物がいるものだ。
しかし、今の時代と『坊ちゃんの時代』を対比し、これからどう生きるかは我らが、見つけねばならないと迫られているようでもある。
坊ちゃんの時代(第四部 明治流星雨)。レビューも第四部
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(第3部のレビューから続く)
この第4部では、天皇暗殺を計画したとして多くの社会主義者と無政府主義者が逮捕された「大逆事件」とその前夜を扱っている。主人公といえる人物は事件の首謀者の一人とされた幸徳秋水や菅野須賀子だろうが、この作品は「思想」そのものと「国家」が主人公といえそうである。
関川はあとがきで大逆事件を取り上げた理由を『この事件の明治知識人に与えた衝撃と影響の大きさははかりがたく、昭和20年の破滅へとつながる道はこれによって定められたのであるから、明治精神史を描くなら不可欠であると見とおしたためだ』と記しているが、この指摘は的をえていると思う。大逆事件については様々の本が出版されているのでここでは触れないが、後にこの事件はでっち上げということが明らかになっている。
関川はこれもあとがきで『事件そのものと主人公の性質による束縛から、作品にユーモアという重要な要素に欠けた憾みは大いに残った』と記している。確かにそうだが、だからといって陰惨なのではない。
それは、拷問などそういう陰惨さを強調した場面が殆ど描かれていないこともあるが、やはり、谷口ジローの細やかなタッチで描かれた絵(人物も背景も含めた全て)ではないかと思う。なかでも、感情の起伏が激しい菅野須賀子と対照的に、厳しい場面でも穏やかに描かれている秋水の表情がそれを象徴しているような気がする。もっとも、秋水は実際そのような人物であったようである(私生活は豪快だが…)が。
(最終第5部のレビューに続く)