ベースはジャズの肌触りを決める楽器だ。だからこれを真ん中に持ってくると、全体の響きが格段に豊かになる。べつにベーシストのアルバムじゃなくても、もっとやっていいんじゃないか。いずれにしても、コンテンポラリーのエンジニア、ロイ・デュナンによるナチュラル・サウンドが最大限に活かされている。これによって、ソロにバッキングに、レイ・ブラウンの妙技を存分に味わえる。また、シダー・ウォルトンのみずみずしいプレイも、音がスピーカーからしずくになってこぼれてきそうだ。
さて、ベースの音を殺さないように手数を抑えているエルビンだが、それによって、はからずもこのドラマーの優れた一面があぶり出された。エルビンのドラムは音はでかいが、もともとリズムが羽根のように軽いのである。音が軽くてリズムが重たいのがマックス・ローチで、音が重くてリズムが軽いのがエルビンのドラムと言えばわかるだろうか。エルビンのシンバル・レガートやブラシは、高圧電線のように頭の上を飛んでいく。ロールス・ロイスの乗り心地というか、バネを仕込んだ空飛ぶじゅうたんというか、クッションの効き方が違うのである。この "Something for Lester" では、その特徴がよく出ている。
フュージョン・ブームのさなかに発表されたものとは思えない風格だ。繰り返し聴くほどに味わいが深まる。