荷風さん、モテモテですね
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著者は晩年の写真が有名ですが、若い頃はなかなかの男前だったようです。身長は178センチと明治の日本人男性としてはとても大柄で、というより当時の世界基準でも高身長の部類だったと思います。しかも大企業のエリート社員で高給取り。人柄も良く芸術を解する。とすれば、女性が放っておく訳がありません。
アメリカの恋人から引き止められ、フランスに渡っても、「私なら1週間を1フランで切り盛りしてみせるから」なんて言い寄られ、まあ、そういう生活をなさっていたのです。
市電の運転手が働く姿を見て、その一生懸命さを切なく思う、なんとなく分かる気もしました。あるゆる動物の中で、人間だけが働かなくてはいけません。不思議です。
パリの女性が「しておやりよ」なんて江戸時代の名残りの言葉使いだったりで、それがまた味わい深いと思います。この本に惹かれて「あめりか物語り」も読みましたが、そちらはまだ作家として一人前になっていないというか、ちょっとがっかりでした。この本は、荷風入門として一番にお薦めできると思います。
永井荷風の魅力満載
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ふらんす物語 (新潮文庫)
永井荷風は、銀行員として約4年の紐育勤務後の28歳(1907年)10ヶ月間の仏蘭西リヨンでの折々の記録である。
まず、ル・アーヴル港に着きモーパッサン『情熱』の作中の情景やゾラの『獣性』の舞台の場面と目に映る実際と一喜一憂する荷風。その後もいつも実際に遭遇した情景にフランス文学作品が重なる。それはジュール・ブルトン、ボードレール、ブゥルジェ、A・フランス、ポートセットやミュッセ等であり、それらの一説を通してフランス語で諳んじて(翻訳)表現している。海外で仕事をして生活をするには、その国の語学力をかなりのレベルを必要とすると想像する。しかし、永井荷風のゾラを中心にフランス文学への造詣の深さと次々と言語で口に出来る様子と翻訳された作品には感服する。彼は、学校を中退している。どこで学んだのだろうか?
昔私の知る永井荷風は、日劇や浅草のストリップ劇場の肌を露にした踊り子の楽屋での老人荷風の姿だけであった。
この『ふらんす物語』に続いて、『ふめりか物語』も新鮮である。
あなたの性欲を刺激したいの!
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この本は約100年前の出版当初は、「風俗を紊乱する」ってんで、発禁本扱いになっていたそうである。昨今は、「いたずらに性欲を刺激する」とかいうことで、発禁本となるようであるが、この本を読んだ私は性欲も刺激されなかったし、あそこを紊乱したとも思わない。
むしろ、当時の「大日本帝国」の外交官はワシントンとパリに愛称を囲うくらいの羽振りのよさを決め込んでいたことが、どちらかといえば興味深い。本書によれば、月給800フランのうち、200フランくらいを月々のお手当として、ミッシェルちゃんに払っていたそうであるな。こんなことをリークしてしまったんで、「発禁」指定になったのかなあ。
いずれにせよ、永井荷風の女好き、オペラ好き、おフランス好きを、本人が身をもって現地ルポしているのが、日本人として悲しくもあり、面白おかしいのである。
永井荷風のエスプリ香る1冊。
★★★★☆
いろんな意味で当時騒がれたといことだが、
いま読んでみると「?」現代人の感覚で
なぜ初版が発禁になったのかは理解できなかった。
確かに、「女」を中心に描いているその描写が当時としては過激なのであったのだろう。
それも作品全体を通してはほんのわずかだが。
この小説の特徴は、日本人のヨーロッパ感ではなく
あくまでも永井荷風自身がアメリカ人の目ということを通しての
ヨーロッパ感ということ。
作品全体としては、当時のパリでの日常を描いているが
フランスだけではなく、スペイン・イタリア等多岐に渡る。
紀行文としても、当時の生活様式を垣間見ることができる。
荷風らしい!
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荷風は明治政府が大嫌い、警察が大嫌い、軍隊が大嫌いという人でした。『ふらんす物語』の中で、駐在している日本人が明治政府をこき下ろすシーンがありますが、荷風の真骨頂です。(今日にもあてはまりそう・・)
また荷風は敬愛する人の墓参りをするのが好きな人で、自分を見いだしてくれた森鴎外の墓へ何度もお参りしていましたが、かの地でもモーパッサンの墓へお参りしています。ちなみに私は特にこの章の文章が好きです。
主人公が、通りにいる街娼を見たところ、実にそのすべてと関係していた自分に驚くところは笑ってしまいました。
この小説が「発禁処分」などとは今ではとうてい考えられませんが、一発で「発禁処分」になったということは、当時の日本は相当病んでいたといわざるをえません。