本阿弥光悦が登場する時代小説の佳品
★★★★☆
作者がこの小説のタイトルを『本阿弥一門』としたのは、芸術村と称される京都洛北の地、”鷹ヶ峰”のこと、ひいては”文化集団”を暗示する為だったと思われる(光悦の個別作品名等は一切出て来ないので、芸術を扱った小説を表す意図ではない)。
小説の主題は、光悦が鷹ヶ峰の地を家康から如何にして賜ることになったかという経緯とその前後の話を通して、武力に対抗する文化の力を描くことにあったようである。このテーマに、石川五右衛門の遺子、太郎坊の成長物語を絡めて、光悦の人柄・人間性が語られる。
同時代の登場人物も良く考証されているし、こうして住み付いた場所を64年(4代)後には返上することになる事実(『本阿弥行状記』)から考えると、良く練られた歴史小説といって良いかもしれない。
光悦を扱った小説としては他に、松本 清張の『小説日本芸譚』(新潮文庫) や辻 邦生の『嵯峨野明月記』(中公文庫)があるが、まるで違った切り口であることが興味深い。