けっして読みやすい本ではありません。「美」はなぜこうも心を捉えるのか、「美」に向かってどう生きるのか。どのページの、どの一行にもその問いと3人の煩悶がぎっしりと詰まっていて、とても密度が高いからです。この作品自体がまるでひとつの美術品のように、全体と細部がぴっちりと一致しています。選りすぐられ、研ぎ澄まされた一言一句にも本のメッセージがしっかり宿っていて、受け止める側にも力がいるのです。
丁寧に言葉を味わいながら読んでいけば、この本が読む人の中から呼び起こしてくる数え切れないほどの「美」の姿に圧倒されると思います。この国の春夏秋冬、早朝や夕暮れ、海や山や町、あらゆる所に存在する美しいものの姿や響きが、詩のように豊かで的確な言葉で次々と描きだされ、それが自分の心の中で不思議と像を結ぶのです。ただ活字を追ってきただけなのに、とてもとても美しいものを、たくさんたくさん見たような気持ちにさせてくれる本です。
唯一の難点は、3人のうち2人の<声>の語り口がよく似ていて判別しにくいことでしょうか。