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背教者ユリアヌス (上) (中公文庫)

価格: ¥880
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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人間の気高さに胸を打たれました ★★★★★
 辻邦生の作品のすばらしさの一つは、「その時の風景がありありと頭に浮かぶ」ことだと思います。私が特に気に入っているのは、ユリアヌスがアテナイで学友たちと哲学議論をする場面。いきいきと議論をする理想に燃えた若者たち、少し砂っぽい周りの風景、太陽の輝き、石造りの四角い建物、岩肌が見える山・・・決して直接的に書いてあるわけではないのですが、読んでいる私には議論する若者たち一人ひとりの顔まで浮かんできてしまうほどです。「安土往還記」を読んだ時も、宣教師の送別パレードを指揮する信長の姿、連なるたいまつの火など、荘厳で美しいシーンがありありと脳裏に浮かんできました。風景が忘れがたい印象を残す、それを言葉の紡ぎだけで創り上げるのです。
 二つ目は、辻邦生の人間観。人間の誇り高さ、高貴さがあますところなく表現されているところです。ユリアヌスはもちろん、圧倒的な身分の違いを知っても、ユリアヌスを人間として信頼し、対等に議論を交わすゾナスを初めとした学友たち、公の場で、正義を堂々と伝える軽業師ディア、己の気持ちにとことん正直な皇后エウセビア。確かに自分の利のみを追求し、策略に走る悪い人間も何人か登場するのですが、彼らよりも人間の誇り高さの方に焦点を当てて書かれているのがよくわかります。辻邦生が生涯をかけて求めた理想とする人間観がここにある、そう感じました。
 ただ、政略結婚だったのにユリアヌスの妃が妊娠したことだけは許せなかった。皇后への愛を貫いてほしかった。また妊娠、死産(正確には殺されたのだけれど)に関して、ある意味、一大事なのに、ユリアヌスの気持ちがほとんど書かれていないことに違和感を持ちました。私が女だから、かもしれませんが。
 いずれにしても、忘れられつつある人間の本質を真っ向から思い起こさせるすばらしい長編でした。
 辻邦生さん、ありがとう。
書き出しだけでうっとりできます ★★★★★
他の方が書いているように物語としての面白さはさて置くとしても、最初の書き出しだけでボクはうっとりできます。

コンスタンティノープルの海の崖の上に立つ城の夜明けで物語は始まります。
夜明けまであと少し、海から立ち上ってくる霧の濃度の描写。
そこから広がる海の光景、文章にうっとりしたいときに立ち戻る文章です。

それだけのために持っていてもいい一冊だと思います。
鮮やかな着想とテクニック ★★★★★
歴史的な事実を考証し尽した上で壮大な構想を練り上げ、綿密に構成されたドラマとして描かれた傑作。また著者の構想を仕上げる為の着想とテクニックも鮮やかだ。例えば数多い登場人物をその際立った特徴づけや、各人が持っているある種の癖を詳述することによって彼らの性格を見事に描き分け、読者が登場人物の洪水によって混乱をきたさないように考えられている。伏線の張り方も複雑かつ巧妙で、前に起こった小さなエピソードが、後になって重なり合い、物語を左右する重要な意味を持ってくる過程は読んでいる者の興味を逸らさないし、映像的な情景描写によって様々な場面を強く印象づける手法にも優れていて、文庫本全3巻1161ページの小説を無理なく読み通すことができる。

上巻は皇室の出身でありながら大司教の暗躍によって家族を殺害され、幽閉された異母兄弟ガルスとユリアヌスの少年時代から話を起こし、運命の皮肉によって副帝に即位する兄ガルスと、キリスト教者のなかに大きな矛盾を見抜いてギリシャの古い異教文化に傾倒するユリアヌス、そして初恋、廷臣たちの奸計で処刑され、あっけない最後を遂げるガルスの逸話までが語られていく。
序章から魅了されること間違いなし ★★★★★
3巻全部で塩野七生氏の「ローマ人の物語」第14巻のほぼ7割に相当します。寧ろ同巻がこの大河小説のサマリーのように思えるぐらいで、30年以上前の歴史学の水準とそれを徹底的にリサーチし、魅力ある想像上の人物を加える等してこれほどまでに見事な歴史絵巻を完成させた著者の筆力に敬服します。

本巻では、ユリアヌスの母の懐妊と産後の若過ぎる死から筆をおこし、コンスタンティヌス大帝の死と大帝が臨終に臨んで洗礼を受けた事実を作ろうとする司教エウセビウスの暗躍、コンスタンティウス帝の即位、その直後の粛清事件、帝国の混乱、若きユリアヌスに関しては幽閉生活とそれからの解放、兄ガウスの副帝即位と処刑までが描かれています。多くの緊迫した事件、エピソードが次々に展開し、巻を置くことあたわず。

そして読者は、序章冒頭の霧に包まれるコンスタンティノポリスの情景から、本書の格調の高さ・選び抜かれた言葉の魅力に心惹かれるでしょう。本作はまさに日本が誇るヨーロッパものの歴史小説の金字塔です。
ひたむきに生きる糧となる小説 ★★★★★
30年ぶりに、文庫本ではない、厚い原版を取り出して読み返しました。キリスト教化するローマ帝国にギリシャ・ローマの神々を呼び戻そうとして戦火に倒れた皇帝の話しです。大部を一気に読ませるストーリー展開、史実への忠実さ、そこに流れる人間への本質的な信頼と宗教への疑念など、未だに色あせていません。その後の辻文学はむやみに厚く、文体も過度に装飾的で好き嫌いがハッキリしますが、この本は押しもおされもしない辻歴史文学の最高峰と思います。このようなヨーロッパ精神を形成した初期留学時のパリ日記も素敵です。