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安土往還記 (新潮文庫)

価格: ¥460
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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大殿(シニヨーレ)信長の素顔 ★★★★★
辻邦生の「安土往還記」です。織田信長の素顔を宣教師と一緒に日本に来た船乗り(イタリア人)から観た視線で書かれた書。そのタッチは非常に鋭く、冷徹である。その文体が信長の素顔を浮かび上がらせる。希代の冷酷な行為を行った信長。その苦悩を鋭くえぐり出す。南蛮人には素顔を見せる信長であるが、いつもは孤独な姿でいる。誰も信じられないし、誰も自分を理解していないと悟っていたのであろう。部外者の南蛮人にのみ心を曝しだす。暗闇の中、黒装束の信長が松明で浮かび上がるシーン。そこに本書の信長像がある。そのシーンこそ本書の核である。
近代合理精神の・・・・ ★★★★★
近代を切り開いた(”合理主義”ではなく)合理精神は、ひたすら"理”を求めてやまない探究心とストイシズムに裏打ちされている。この本は、その近代合理精神の化身として信長をとらえ、その"高み”を求めてやまぬ行動の軌跡を描いている。

確かに、この主題にふさわしい人物は信長しかいないだろう。
近代合理精神の象徴として信長を描くことで、信長という精神の一面を鋭く抉り取ることにも成功している。

純文学系の作家の歴史小説は概ねそうだが、明確な主題があり、主要人物は、その主題にふさわしい性格設定がされている。(成功しているケースでは、その性格が、歴史上の人物の一面を鋭く浮き彫りにする結果にもなっている。)

その一方で細部の歴史考証は驚くほど正確である。
この本も、まさにその典型である。

本能寺の変の直前における明智光秀の心境に一番肉薄しているのはこの本ではないかとさえ思う。

日本史に一瞬の光芒を放って去った信長の中に、わずかな間だが日本のなかに芽生えようとしていた”合理精神”を感じさせる感動の書である。

蛇足ながら、この本は、宣教師について来日したジェノバ出身の船乗りの書簡を日本語訳した、という設定になっている。この手記が存在すると信じきったある学生に、大学の歴史学の教授がてこずらされたそうだ。

この話を聞いた北杜生さんが「辻のは、手が込んでいるからね」と笑ったというエピソードがある。
しっかりとした目で信長を捉えた作品 ★★★★★
これは実際にオルガンティノらと一緒に日本に渡来した、
ある航海冒険者の私信を元に描かれた物語で、信長とその周辺の観察記録とも言える。

宣教師ではない、普通の一個人である外国人の視線で描かれた信長像は、
単に冷酷で非道な対象と言うよりも、
自らの人生に於いての理にかなった道を突き進む信長の生き様や思い、
それに心理が丹念に描かれていて、
大変な観察眼の持ち主だと、読んでいて舌を巻いてしまう。

また単なる報告書でもないために、何度も自身の中で考え、
悩み、問い掛けるような文章であり、簡単に読み進めると勿体ない。

それほどページは多くはないが、その質はかなりのボリュームがあるため、
月に何冊読むかや、読み終えることだけに情熱を持った人には、
お薦めできない作品だと思う。
異色の信長表現 ★★★★☆
 辻邦生の作品を初めて読んだ。まず感じたのが文体の典雅さである。同世代の三島由紀夫に比べると遅咲きの著者であるが、その分、長年の文学研究、西欧研究の成果が滲み出てくるような、味のある美しい文体となっており、この文体は日本文学史に残る一つの成果だと言ってもいいのではないかと思う。また、本作品は形式上は歴史小説だが、読み進めると分かるとおり、それはあくまでも信長と彼の死生観、哲学を描き出すための手段に過ぎない。キリシタンの宣教師と船員の視点から信長と当時の日本を描き出し、当時の日本人にはなかなか理解されず、自己の運命に挑戦してでも「事を成す」ことに全てを賭ける彼らだけにしか理解できなかった信長の人物像を構築している。このような「歴史小説」をもっと読みたいものである。
信長に関する文献の中でも、不思議な異彩を放つ良書ですね。 ★★★★★
日本における宣教師団に随伴した人物から見た信長の物語。信長を「大殿(シニョール)」と呼んで、やりとりなどの回顧録のように進んでいきますが、これまでの信長に関する書物とは全く視点が違うため、斬新で、なぜか信長の映像を見ているような迫真の感覚が生まれます。
 
信長というと、「短気な天才」といったイメージが強くて、堺屋太一氏なんかの描き方でも「絶対的な統治者」といった人物像なんですが、この本は視点が全く違っていて、分からないことを素直に宣教師達に聞いてきたり、悩んでいる様子を見たまま(のように)述べていたりと、まるで同時代に我々も居合わせているような感覚を感じてしまう、不思議な物語に仕上がっています。本能寺の変などは、その謎を独自に解釈するものが多いのですが、当時の人達にとっては突発事件で何が何だか分からない事柄であったんでしょうし、その雰囲気が「そのまま」かつ「淡々」と展開していて、返って不思議な臨場感を共有することになります。
 
良書ですね。歴史好き、信長好きには是非一読頂きたい文献です。