山本周五郎賞を受賞した『安徳天皇漂海記』の続編ともいうべき作品。しかも書き下ろし。

前作も面白かったけど（特に源実朝のところ）、今回のはもっとすごい。幻想的で、血生臭いけど、『アンドロギュヌス』のころに比べると、非常に抑制された書き方になっている。

今年読んだ本で一番面白かった。全部で4編の短編がどれもいいけど、特に最後の後鳥羽院を描いたところはすごい。いい本読んだ。

「安徳天皇漂海記」の外伝というか，後日談となります。
前作は必ず読んで，その世界を味わっておくべきでしょう。
そうすれば，どの話もその美しさが際立つはず。
あえてストーリは書きませんが，大変なお勧めです。

この作品には「芸術性」を強く感じました。
「音楽的」といってもいいかもしれません。
地べたを這っている現代小説とは明らかに一線を画しています。

日本人の海に対する憧れといったものもほのかに感じられます。
白石一郎氏とまったく味が異なっているのに，何か近いものを感じる。
次回作も期待したい。

イザナミが始めに生んで海に捨てられた，蛭子の神通力によって壊滅から救われる四人の帝王達の美しい物語．元の最後の皇帝，明の二代皇帝と最後の皇帝，そして後鳥羽院．この妖しい力が中華の地に齎されたに就いては マルコ ポーロ の旅が寄与したらしい．一見琥珀のような玉が，これで最後ぎりぎりにまで追い詰められた所有者に，この世ならぬ力を与え，完全な破滅から救い出すのだ．その有様は所有者の置かれた状況により様々であるが，なにやら蜃気楼に巻き込まれたような幻想的な美の世界が現出するようである．私は著者の 安徳天皇漂海記 をまだ読んでいないが，この手の幻想美はこの本で初めて出会って感激させられた．これは病みつきになりそうだ．