良い教育は記憶に残る
★★★★★
農を生業として生きるために必要な理論と、抽象度の高い課題を噛み砕いて話すことのできる
豊かな人間性、そして、時折見せるクリエーターの稀有な感性。教師としての宮沢賢治が、岩手
県花巻の農村に残した教育遺産ははかりしれない。
著者は、当時の生徒へのインタビューによって、宮沢賢治の教師としてのしごとを再現してい
る。こう言うと、それぞれの生徒が語る思い出の断片を単に寄せ集めただけのように感じるかも
しれないが、当時から60年以上経過して、なお記憶を手繰り寄せることができること自体が素
晴らしいことである。
教育の理念が先行し、指導要領を金科玉条のように振りかざす教師は、自らの忍耐強さを生徒
に学ばせる以外に何も残すことはできまい。教師としての宮沢賢治が再評価されるべきなのは、
何よりも生徒の記憶が物語っている。